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若本修治の住宅コラム

2021.11.20 第179話

ウッドショックよりも大きな住宅建築の将来課題。

 総選挙も終わり、話題は新型コロナ禍で傷ついた経済活動の再開と復興に移ってきた。

 特定の大企業や業界ではなく全国津々浦々まで経済効果を広げようと思ったら、GoToによる飲食や観光産業への支援だけでなく、やはり住宅取得支援、つまり新築住宅への経済対策は大型予算が組まれるだろう。英国グラスゴーで開催されたCOP26で訴えられた「カーボン・ニュートラル」宣言を考えても、新築住宅の省エネ性能向上は避けて通ることが出来ず、その面でも少子化や人口減少においても新築住宅への経済支援が地方への景気対策としても有効だと評価されている。

 

 しかし、半導体不足が日本の自動車産業の国内生産のブレーキになり、化石燃料の高騰が輸送業界の足かせになっているように、需要や生産能力の回復に水を差す要因があれば、経済対策が功を奏するのが厳しくなる。一戸建ての建築業界で言えば「ウッドショック」と呼ばれる現象がそれに当たる。世界的に住宅の構造材に使われる木材が不足し、輸入材に頼ってきた日本の木造住宅が、配給制のようになって受注上限を決められたり、着工時期の延期や建築費の高騰を招いている。その背景は、材料自体の不足よりもむしろ木材を出荷する国際港で、新型コロナ禍によるロックダウンで作業員が不足したこと。そのために従来の処理能力が低下してコンテナが捌けなくなり、コンテナ船が海上沖合で長期間停泊・滞留、コンテナ製造の中国の生産力にも影響を及ぼして、物流自体が機能不全を起こしたことが、ウッドショックに繋がったということのようだ。グローバル化の負の側面、リスクが顕在化したのが今回の新型コロナによるパンデミックの負の遺産だ。

 

■短期的なウッドショックよりも深刻な大工不足

 

 総選挙で信任を得た岸田政権は、経済安全保障政策を重視して、新しい組織も立ち上げるようだ。ウッドショックや化石燃料の高騰など、短期的な価格変動や貿易の機能不全だけでなく、米中の対立による貿易戦争や冷戦状態が続くことへのリスク回避も含め、特定の国や原材料に過度に依存する状況を改めようという動きが進められていく。

 

 ウッドショックは、米国の景気の急回復により、住宅の需要が高まって、輸出に回るはずの木材がアメリカ国内需要に向けられているとの説明も耳にする。しかし、日本のような新築偏重のマーケットではなく、住宅需要の大半が中古住宅(既存住宅)の米国で、しかも2×4規格の構造材と日本に出荷される軸組材の違いを考えると、労働力やコンテナ不足により港から木材出荷が出来ないというのが現実だろう。一方で日本国内には、伐採期になった杉や檜の植林が全国の山々にあるのに、十分な出荷も出来ず、伐採コストに見合わないほどのお金しか山(林業家)に落ちないという状況は、今回も解消されていないのにも驚かされる。林業振興に莫大な補助金が投じられ、世界でも有数の木造による新築供給のマーケットがある日本で、今回の事態はもはや産業政策の失敗であり、よほど大きな構造改革が行われない限り、山はさらに衰退していくだろう。

戦後植林された針葉樹の山は、単一の樹種で一斉に伐採される『皆伐』によって急傾斜地がはげ山にされることが繰り返されている。落葉樹もなく山の地肌が風雨にさらされ、ゲリラ豪雨による表層崩壊なども引き起こしている。生物多量性も含めて、日本の山の再生と持続可能性追求には課題が多い。

 

 住宅業界にとっては、ウッドショックは一時的な現象だとして時間が解決してくれる問題だ。むしろ時間が経つにつれさらに深刻になるのが「大工不足」だ。2000年に約65万人いた大工が2010年には約40万人、2020年は推定で約30万人、そのうち4割以上が60歳を超えた高齢者の大工だということだ。若い人たちの就業はほぼ無いに等しい業界なので高齢化は進む一方で、人数の減少だけでなく、作業効率、現場での生産性も落ちていく一方だと予想される。この現実への解決策を、今住宅業界は指し示すことなく、未だに住宅展示場や街かど見学会、大量の広告宣伝に多大なコストを掛け、集客ばかりに力を入れているように見える。鉄骨プレハブメーカーも、木造住宅に参入しているが、従来の在来工法と比較しての生産性改善の工夫は見られず、木造の建築現場は“大工に依存している”という状況は変わっていない。もちろん大工は、会社が給与や社会保障を負担する社員ではなく、フリーランスの扱いだ。

棟上げの日は、応援の大工さんたちも集まり1現場8人くらいになるが、翌日以降は1人の大工や親子2人でコツコツ作業するケースが多い。こちらの現場でも8人中6人が60歳以上だった。

 

 このような状況を改善するためには、構造材を大型パネル化し、工場生産率を高めて現場作業を軽減するか、それとも労働分配率を高めて、建築費に占める現場職人への賃金・報酬を飛躍的に高めるかのいずれか、これまで先送りしてきた住宅生産の構造変化、変革が急務だ。私は前者の「工場生産率を高める」よりも、後者の「現場で働く人たちの報酬を高める」ために何が出来るか、米国の住宅生産の効率性も含めて考えていきたい。今は、建物自体の価値に何らプラスに働かない、広告宣伝や営業ロスなどに建築費の多くが割かれ、建材流通を含めて中間マージンの中抜きによって、本来の付加価値を提供している人たちの報酬が抑えられているのが日本の住宅産業の課題だろう。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

 

 
「地元の優良工務店が丹精込めて建てている建物です。」と表示した看板シートを現場に掲げている。
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