2022.5.20 第183話
誰かの“損”で成り立つ経済・資本主義の行く末
新型コロナ禍で出張機会も減り、たまに東京に出張すると「失われた30年」というのが嘘だと思うほど街は姿を変え、超高層ビルが林立、あちこちで大型クレーンが動き、再開発などが行われている。このたび羽田空港から久しぶりにモノレールを利用して浜松町に降り立ったら、平成の初め、バブル経済の頃には六本木からもよく見えた『世界貿易センタービル』が閉館、周辺の再開発のため多くの出口が閉鎖され、出口がわからないまま、目的地に行くのに土砂降りの中、地下鉄駅1駅分歩くハメになった。1970年代には当時日本一の超高層ビルになった世界貿易センタービルは解体、90年代前半には田町のNECビルも周辺唯一の超高層ビルだったが、今や存在がかすむほどもっと背の高い超高層ビルに囲まれてしまっていた。
宿泊先は『変なホテル東京浜松町』。翌朝は午前6時前から散歩で旧芝離宮恩賜庭園の前を通り、竹芝桟橋など浜松町・汐留周辺をゆっくり歩いてみた。JR浜松町駅の東側に、旧芝離宮恩賜庭園を見下ろすように竹芝通り沿いに伸びている空中廊下(ペデストリアンデッキ)が気になり、エレベーターに乗って3階で降り、廊下を渡ってみた。
首都高を眼下に見下ろしながら竹芝ふ頭公園まで続くこの人工の構造物は、一体何の目的で誰のために、どこが費用を負担して誰が管理しているのか、合理的な説明がつくような建築物には感じられなかった。週末の早朝だから、ほとんど人は歩いていないのは当然ながら、地上に広い歩道もある竹芝通りの上空に、直結しているビルは駅から200m程度離れた『東京ポートシティ竹芝オフィスタワー』しかない。観光施設もコンベンションホールもないこの空中廊下は、私のような「お上りさん」には東京の景色を楽しめるものの、日常的に誰が利用するのだろうかと思われた。
日本のGDPの実態は・・・?
2000年代に入ってから、日本のGDP(国民総生産)はほとんど伸びていないという。もちろん賃金も横ばいで国の借金だけが膨らんでいると言っても過言ではない。しかし、東京に限らず全国の都市圏では、バブルの頃でさえ考えられないほど、大きな建築プロジェクトが進行し、地方でもタワマンが建てられて、大手ゼネコンを中心に「この世の春を謳歌」しているようにさえ感じる。
1995年に発生した阪神淡路大震災や2011年に発生した東日本大震災など、都市を襲った巨大地震からの復興予算や国土強靭化予算など、土木・建築プロジェクトには官民問わず大型の投資が相次いでいる。それでも経済成長もせず、賃金が据え置きになっている状況は、日本国内にきちんと投資したお金が循環していないか、需要に基づかない無駄な投資によって、本来の価値を失い捨てられているものが余りにも多いということではないだろうか?
前者は「グローバル経済」によって、国内で儲けたお金、ゼロ金利で調達したお金が、海外への投資に向かい、日本人の雇用や国内消費には回っていないことが考えられる。事実、国際収支の中で、「貿易収支」はエネルギーの購入(お金の流出)が大きく、円安もあって昔のような力強さはなく、海外投資等の配当利益として計上される「一次所得収支」で経常黒字になっている。成長のない日本国内には設備投資も従業員への教育投資もせず、もっぱら海外で利子や配当を稼いでいるのが実態のようだ。
後者は、都心のオフィスビル投資やマンション建築によって、住宅においては郊外の空き家の増加、古いマンションの空室増加や中古物件の価格下落による個人資産の毀損、そしてオフィス系物件はやはり中小オフィスビル等のテナント移転によるビル経営の悪化など、借金の返済や相続税負担に苦しむ国民を数多く出していることが想像される。今、東京でもトレンドスポットとして注目を集めている大型施設、集客装置であっても、これほど新しい大型商業施設やアミューズメント施設、ショッピングエリアが次々とオープンすれば、その分”人は分散”して、投資を回収する前に他の新しい施設に客を奪われるということを繰り返すだけだろう。
また建設に限らず小売流通業、製造業など、日本の産業自体が「実際には有効な価値を提供していない、取引の中間に入り込む口利き中間搾取」業者が数多く跋扈しており、多段階の中間マージンが抜かれることで、多くの勤労者が薄くしか利益を分配できずに、国際的な生産性の低さが指摘されている。自分たちの意思で“少ない仕事・収益を分け合う”のであれば美談だが、知らないところで価値も提供していない業者が利益を抜いている状態は、健全な経済は育たず労働者の苦労も報われない。そしてこれから人々の関心や目新しさは「メタバース(インターネット上の仮想空間)」の世界に移行していき、これまでのAmazonや楽天、ZOZOタウンなどECサイトでの「ネット通販」の成長以上に、物品販売だけでなくサービスも遊びも、都会的なものほどヴァーチャル空間に置き換えられる可能性が大だ。巨大な施設を維持する多くの買い物客や来場者、会員たちは次第に公共交通機関や駐車場から歩き、多くの人で溢れかえるようなリアルな施設は「疲れる」として、投資が回収されないまま建物は老朽化、テナントは撤退していく未来も予測しなければならない時代だ。特に人との接触を避けるようになった感染症のパンデミックがさらに加速化させた感がある。
個人に振り返ってみれば、平成の初め以降に住宅取得した人達を含め、多くの普通の日本人、勤労者が、実は目に見えないところでお金を搾取され、または本来ある資産価値が大幅に低下することでの「自宅の不良債権化」に気づかず、老後資金の不安や子どもたちの未来に希望が持てない社会になっているとしたら、今の資本主義社会が持続可能だとは思えない。「外部不経済」のコストを国民が負担し続ける社会は、大きなパラダイムシフトが必要だろう。
ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)