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若本修治の住宅コラム

2022.8.20 第186話

女性専用アパート投資への危惧

 数年前に『かぼちゃの馬車』という不動産投資熱を利用した詐欺事件があった。(株)スマートデイズという会社が、女性専用シェアハウスへの投資を募集し、数百億円から1千億円を超えるとも言われる被害者を出して社会問題化したのでご記憶の人も多いだろう。この事件は、不動産投資のリスク、つまり“空室によって家賃収入が不安定になる”という投資家の不安を払拭するために、スマートデイズ側が「サブリース契約」という一括借上げ方式によって、家賃保証をするというスキームで投資家を安心させ、被害を拡大させた。その保証期間は、アパートローンよりも長期の35年間で、普通の不動産投資ではそんな保証はあり得ず、基礎知識があればこれほどの被害は広がらなかっただろう。

 

 この事件が巧妙だったのは、従来の不動産投資で最も一般的な「地主をターゲット」として「相続税対策にも効果的なアパート建築による資産圧縮」と、借金の不安解消のための「サブリース契約」という、錆びついたビジネスモデルを採用しなかったこと。このような手法は、すでにダイワハウスや大東建託などの大手が確立させたもので、土地を担保とした借金なので最悪不動産を手放せば、自己破産するような家族離散リスクはなかった。しかし、耐火構造違反の欠陥アパートで上場企業のレオパレスが別の問題を発覚させたほか、空室の増加とサブリースの家賃減額交渉などで賃貸経営の苦境と相続人の苦悩がNHK等の報道番組でたびたび報じられ、地主のアパート投資への警戒感を高めた。

 

 一方かぼちゃの馬車は、ターゲットを「不動産を所有しないサラリーマン投資家」として、入居者を「女性専用」に絞ったこと、そしてキッチンや浴室などの水回りを共用する「シェアハウス」とすることで、建築費に占める設備費の割合を下げた。相対的に1室あたりの建設費を割安に見せるシナリオが、他のハウスメーカーとの差別化として、不動産を所有しないシロウト同然の投資家の心に刺さったのだろう。そこに『スルガ銀行』という業界でも優良な金融機関だと評価されていた銀行がバックにつき、ユルユルの審査で融資を実行していったから、家賃保証の安心感も相まって、驚くような急成長・急拡大が被害を増幅させたと言っても過言ではない。ほぼ全額借金による不動産投資だった

 

女性専用の賃貸物件の将来性は?

 

 低迷が続く今の日本の消費社会で、最も旺盛な消費行動を取るのは成人女性だと言ってもいい。今は新型コロナなどで行動を抑制しているものの、旅行やグルメ・レジャーにお金を使い、モノ余り時代でも売上を伸ばしているのは、女性をターゲットとしたお店や業態だと言っても過言ではない。今や消費をリードするのは、大人の女性であり、不動産投資など住宅・不動産業でも例外ではなくなっている。従って、女性をターゲットにする“差別化戦略”は、内装や設備仕様を一見豪華にさせて、割高な建築費でも「差別化された希少な物件」というアピール効果は大きかったのだろう。募集会社のスマートデイズ破綻の原因は、割高な建築費で5割のキックバックを要求し、高い家賃設定のままサブリース契約による「満室保証」をしたことで、入居率が低いまま当初計画よりも低い賃料収入しか得られなかったようだ。家賃の減額交渉から次第に保証した賃料の支払いが滞り、社会問題化していった。入居率は平均4割程度だったというから、建築費のキックバックで得た莫大な報酬が、家賃保証の賃料に消えていった。目先の儲けに走って急成長したが、適正な建築費と家賃設定さえしていれば経営破綻はせず、これほど大きな社会問題にならなかったかも知れない。

 

 最近『女性専用アパート』の建築を謳い文句に、地方の工務店にフランチャイズ加盟を勧めるビジネスモデルも登場しているようだ。当社への相談者の中でも、親族が所有する不動産の活用に、デザインテイストや管理の容易さなどから女性専用のアパート建築に魅力を感じる地主は心を動かされていた。確かに、ちょっとお洒落な外観にインテリアも女性好みで、お一人様の女性、シングルマザーも増えていることから、社会的ニーズも高まっているのだろう。しかし、私は立地条件だけでなく、経営リスクから考えて「女性専用アパートは、お勧めできない」と返答した。

女性向けの住宅は、輸入住宅風に上げ下げ窓(シングルハング)をリズム良く配置し、ケーシングやモールディングと呼ばれる装飾を窓まわりに施してパステルカラーなどの明るい色を入れると、それらしくなる。画像は当社サービスの注文住宅案件で、あくまでイメージとして掲載した。

 

単身者向け分譲マンションの増加と経済力ある女性の選択

 

 2021年度の税制改正により、住宅ローン控除の最低床面積の要件が、それまでの50㎡から40㎡に引き下げられた住宅取得資金の贈与に関しても同様に緩和されて、単身世帯やお一人様用の分譲物件が売りやすくなり、下の画像の様な物件も市場に登場し始めている。稼いでいる現役世代の女性は、お洒落な高い家賃のアパートよりも、自己所有したほうが経済合理性が高いことに気づき始めた。住宅ローン減税により月々のローン支払い額が賃料よりも抑えられ、しかも自然災害が増える中、安全で近隣との関係にもドライで過ごせる鉄筋コンクリート造、鉄骨造の分譲マンションを選ぶのは必然だろう。ローンを返し終わったら、他人に貸すことも出来て老後の住まいの不安も和らぐのがマンションの所有で、アパートの賃料を払い続ける限り、一人暮らしの女性やシングルマザーの将来不安が消えることはないだろう。女性専用アパートのオーナーも同様、建物が古くなってからリスクが顕在化することは避けられない。

当社事務所の近隣で建築中の大型分譲マンション。仮に右側のKタイプ、専有面積41.22㎡の1LDKを購入、金利1%で2,600万円借り入れて35年ローンを計算すると、年間返済額は約88万円となる。住宅ローン減税で住民税等の一部が戻ってくると考えれば、月額7万円前後のアパート家賃を払い続けるより、都心のマンションを購入したほうがいいという需要層は確実に増えている。都心の物件は資産になり得て、将来売却や賃貸として貸すことも可能だ。

 

 私は安定的な賃貸経営のターゲットは、下手な差別化をして建築費をアップさせるよりも、不動産所有欲はないものの継続的に稼げる力を持ち、海外などの不動産事情にも明るいビジネス系の転勤族や法人契約先が魅力と感じるようなシンプルな間取りや価格設定、立地条件の選定をしたほうがいいだろうと考えている。例えばマツダのような海外子会社を持つ企業で、現地駐在員の経験を有するような幹部候補がイメージされる。自家用車を所有しなくてもカーシェアリングやレンタカーを利用、海外の友人を招いて自宅でパーティを開いても、隣に騒音問題含めて軋轢が生じないような機能・性能・デザインを有するような賃貸住宅だ。広島であれば、外国人のプロスポーツ選手の日本での住まいとして球団と契約してもいいだろう。5年程度で入居者が入れ替わり、近隣の賃貸物件では満足できないものの、分譲物件を買う必要のない層は、政令指定都市では一定の需要がある。しかし実際には三大都市圏でもほとんど供給はされていない。女性専用アパートよりもむしろ家賃も高めに設定できて、安定経営が可能ではないだろうか?

当社にて提案した賃貸住宅の間取り例。間口が狭く奥行きのある敷地ゆえ、あえて敷地内に駐車場は取らず、専用庭のあるような賃貸プランとした。中央に階段室を設けて左にリビング、右にダイニングキッチンを分離することで、1階はパーティに招きやすいソーシャル空間、2階をプライベート空間に分けている。階段室が構造バランスを確保して、限られた空間面積で広く感じられる外国人好みのプランとなった。日本ではこのようなプランはほとんどないが、海外で生活経験のある家族なら、受け入れやすい間取り(オープン・プランニング)だろう。

敷地内に駐車スペースを設けないことで、共有庭を整え、賃貸とは思えないような雰囲気を醸し出すことも可能となる。周辺環境も含めて、道路から見て「ここに住んでみたい!」と思ってもらえるような外観やランドスケープに建築費を傾斜配分すれば、競合物件の中から選ばれる物件となる。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

この10年で高級化している大手ハウスメーカーの賃貸アパート。1棟単価がほぼ倍増し、かぼちゃの馬車同様、1億円を超えている。
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