2025.12.24 第192話
大規模災害からの復旧・復興とコウハウジング(復興私案)
先月(2025年11月半ば)に発生した大分県佐賀関の火災は、海を隔てた1.5Km先の離島まで飛び火し、約170棟の家屋が焼失した。今年2月に発生した岩手県大船渡市の大規模山林火災などを除き、既成市街地・集落の火災は2016年12月に発生した新潟県糸魚川市の大規模火災(147棟焼失)を超える戦後最悪の被災となった。高齢化と人口の流出により、空き家が4割程度あったということから、消火活動もままならずあっという間に燃え広がって多くの住民が焼き出された。改めてGoogleマップで地形や集落を見ると、瀬戸内海の島しょ部の漁港でもよく観られる、狭い道に木造家屋が立ち並ぶ『木造密集地域』だ。
去年のお正月に発生した能登半島地震も、激震や津波による家屋倒壊だけでなく、輪島市の「朝市通り」で発生した火災は数百世帯が暮らしていた街を焼き尽くし、昔の面影も土地の所有の境界さえも分からないほど街を壊滅状態にした。東北の三陸海岸を襲った3・11の津波被害も含め、過疎化が進む日本の地方都市の海岸線・古くからの漁港は、どこでも今後このような壊滅状態を目にすることが増えていくことだろう。今月はじめに青森県東方沖で発生した震度6強の地震では、初めて『後発地震注意情報』が発令され、日本列島のどこで巨大な災害が起きてもおかしくない状態が続いている。

「住宅CMサービス仙台」のスタート時に訪れた、名取市閖上地区の被災地。津波被害から3年半経っても、まだ権利関係や地域住民の合意が進まず、復興に着手できていなかった。2014年10月18日 撮影:若本修治
■ 大規模災害からの復興と木造密集地域の解消
今年の秋、石破政権から女性初の首相となった高市政権に変わったが、石破前総理が掲げた『令和の日本列島改造』を、今こそ地方の再生と国土の強靭化のために進めてもらいたい。中途半端な「コンパクトシティ」の推進で、中心市街地の空洞化や木造密集地域の空き家の増加が止められないのはすでに周知の事実。佐賀関や能登半島に限らず、南海トラフ巨大地震など今後予想される大規模災害で被災するであろう地域の多くが、高齢化と空き家の増加が顕著になっている。3・11の時代よりもさらに環境は厳しく、被災を免れた住民でも街を再生する経済的・精神的な体力は残されていないだろう。だから、全国の木造密集地域で“被災する前の平時”に、地域の再生計画の立案と住民への周知、権利関係の把握と調整を、自治体を巻き込んで実施しておきたい。それは被災した後の再生計画というだけでなく、現在進行形の“村落の消滅”に歯止めをかけ、サスティナブル(持続可能)な”故郷”強靭化の再設計だ。
もはや基礎自治体(市町村)では、将来のインフラ維持も厳しくなりつつあり、”限界集落を守る”ことはできなくなっているということを認めることからスタートしたい。特に道路や橋・上下水道から、住民の安否確認や野生動物被害の回避、急病や火災などの緊急車両のアクセスなども含めて、基礎自治体内で、地域住民が安全に集住する地区を取捨選択しなければならないだろう。コロナ禍で有名になったキーワード『トリアージ』で、守るべき地域と未来を選別するということだ。
既存のハザードマップやGoogleEARTHで地形なども確認し、どのような災害でも住民が避難できる適地を選びたい。古くからの家屋が立ち並ぶエリアで、所有権も複雑だろうが、今生きている人たちの意思で、私的区画整理組合をつくり、行政や専門家も加わって新しい街区を作るくらいの絵を描きたい。昔の領主(殿様)が難攻不落なお城と城下町をつくったように、自治体が頑強な公民館兼避難施設(シェルター)や広場等を計画し、一定の人口密度のあるエリアに住民を集めるイメージだ。土地は、すでに買う人もおらず親族も相続を放棄するような“負動産”がほとんどで、建替えする財力も乏しい人たちが多いとすれば、自治体や公的団体が安価に買取り“公有地化“すれば、事実上住民の共有財産となる。その土地に99年の定期借地権を設定して、耐震性・耐火性能の高い木造低層の高密度住宅を建設するのだ。土地の売却代金を建設費の頭金に充て、経済力のある人には補助金と低利融資、年金暮らしの方には家賃補助での賃貸も考えられる。東日本大震災の復興までの道のりや予算投下を考えれば、価値ある”激甚災害予防投資”だろう。その時、出来るだけ地元に近い建設業者や資材業者に発注し、地域に人材の雇用やお金が循環するように配慮したい。

肥前国(佐賀県唐津市)に豊臣秀吉が朝鮮出兵のために築いた『名護屋城』のジオラマ。当時、人里離れた半島に20万人を超える日本有数の城下町をつくった事例は、災害に強く住民の避難経路を確保する高密度な集落をつくる時に、強烈なイメージを与えるだろう。普通のまちづくり計画では生まれないイマジネーションを持ちたい。2024年5月4日 名護屋城博物館にて 撮影:若本修治
■ 北欧で広がった『コウハウジング』という住まい方
建物の設計は、耐震性や省エネ性能が高い住宅を、合理的な計画に沿って標準化・単純化・効率化をし、建築コストを抑えたい。そのためには一戸建てではなく、欧米でよく見られる”連続住宅”(セミでタッチドハウスやタウンハウス等)が望ましいだろう。建物が連続することで、外皮(外壁面積)を最小化でき、外壁の仕上げや窓の数、熱損失も減らすことが出来て、横揺れに強い住宅になる。一戸建ての隣棟間隔(建物同士の隙間)が不要となる分、道路空間やコモン(共用庭やフットパス)が確保できて、災害の避難経路も容易に計画できる建て方だ。もちろんプライバシーは守られるが、昔の長屋のようにご近所付き合いが出来るような距離感が望ましい。従来の町内会や隣組のような地域コミュニティが維持できるよう、出来るだけ近隣関係と年齢構成を重視した入居誘導をし、孤独感が生じないような建物配置と住民が共通で利用できる設備や共用空間を用意したい。例えば、ミニ農園でもいいし、本格的な厨房(キッチン)やサウナ、地下の防音室でもいいだろう。500世帯程度(人口1,200~1,500人前後)の集住が1つの単位で街を集積させるイメージだ。
区分所有マンションのように、共用部分の管理費と修繕積立金を各戸が負担し、定期的な会合の開催や共用部の利用のルール化などをすることがコミュニティの維持に繋がる。そのような顔合わせの機会や連絡が希薄になると、災害にも犯罪にも弱い街になり、衰退が加速化する。だから建物のハード面だけでなく、経済的にも心理的にも地域が持続可能となるような設計・計画を練りたい。美容院や喫茶店、文化教室など生活密着型のサービス業が成立する程度の”顔が見える関係”が望ましい。

私が書いた過去のコラムをNotebookLMに読み込ませて生成AIが出力した図解説。少々感じが”文字化け”しているが、街区単位で復興していくと、安全で暮らしやすい街が再生できる。
参考となるのは、デンマーク発祥で北欧に広がった『コウハウジング』。集団による住宅開発・住まい方のひとつの形だ。基本的に共同で暮らしながら、プライバシーも守れるような住宅で「シェアハウス」よりも独立性が高く、所有権がハッキリしている。
例えば、高齢世帯が多く、以前のようにキッチンで調理や片付けをする機会が少なければ、自宅にはミニキッチンだけ設置し、地域住民が共有する“コモンハウス”に調理スペースや広めの台所空間を用意して、集会所やパーティ会場として利用するといった施設も計画できるだろう。自宅はシャワーだけにして、浴室やサウナは共用という形にすれば、個々の住居の建設費は抑えられ、水道光熱費も圧縮できるというのがコウハウジングの考え方だ。もちろん固定資産税や自宅の維持管理コストも抑えられる。

日本では馴染みのないコウハウジングだが、海外では様々な事例やハンドブックが販売されている。住民が集まれるポケットパークやコモンハウスなど、共有財産を持つことでコミュニティ維持の仕掛けとなっている。
戦後日本は豊かになり、それまでは借家に銭湯を利用していた人たちが、マンションや戸建てに住み替えていった。アメリカのようなベッド数に応じたバスルームやトイレの設置は贅沢としても、1軒の家にお風呂と2か所のトイレが普通になった。都市部で暮らす富裕層は、建築コストの上昇にも耐えられるだけの収入が得られプライバシー確保も求められるが、今後衰退が予測される地方の過疎地は、むしろ共同化のほうがいいだろう。「井戸端会議」は地域で井戸を共有していたから、お互いの協力や譲り合いが人間関係を深め、また銭湯があることで、ご近所の家族構成や近況を知る機会も得られた。ハード・ソフトともに“災害に強い街”とは何かを深く思考し、日本全国で集落の再生を競って、国や県が資金や人材・ノウハウの共有化などに力を貸したい。それが、日本の津々浦々まで災害に強く、人々が将来に希望を持って暮らせる『令和の日本列島改造』に繋がるのではないだろうか?

ひとつの街区に高密度な木造住宅を配置した計画事例。中庭を取り囲んで連棟住宅を建てることで、昔の”縁側”のようにご近所との適度な距離と親しい関係が維持できる。左奥の火の見櫓のような塔屋のある建物が、地域住民が共有するコモンハウス。架空の敷地で制作したコウハウジングのイメージ模型。

ドイツの環境首都として知られるフライブルク市を視察した時に、市民農園近くで立ち並んでいた連続住宅。日本の長屋のような暗くて低所得層の印象はなく、明るく重厚な建物だった。相対的に建築費は抑えられ、耐震性や省エネ性能が高いことが容易にイメージできる。
●関連情報:コラム178話『空き家解消とジェントリフィケーション』
ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)



