2017.9.20 Vol.15_No.2
日当たりのいい南向きの土地が欲しい?
「虹がきれいに目るのはどの方角ですか?」と質問されたらどう答えますか?
時間帯によって、虹が現れる方角が変わりますが、南の方角に虹が出ることはまずありません。なぜかと言えば、虹は”太陽を背にした時”、空中にある霧などの大量の水蒸気に太陽の可視光線が当たって見えるものだから、逆光になる場合には虹は見えません。同様に、庭園や美しい風景を見る時も、その景色を写真に撮る時も、直接対象となる景色のほうに太陽光が当たっているタイミングが、最もシャッターチャンスとなるでしょう。つまり「逆光」ではまぶしくて、きれいな景色も価値が半減してしまうのです。
土地を探す時、日本では多くの方が「南向きの明るい土地がいい」といいます。
北向きの土地は、暗くてジメジメして、冬寒いというイメージが定着しているようです。
実際に、南向きに建っている住宅を見ると、本当に陽当たりが良く建物自体が明るく見え、その裏側の北側の土地を見ると、南側の建物の陰になって暗い感じが否めません。特に瀬戸内海に面して平野部が少ない広島県内の住宅地は、南向きの傾斜を利用したひな壇状の団地が多く、南側に道路、北面は法面となってブロックなどの擁壁があるというケースが少なくないのです。
このような土地形状の場合、道路から駐車スペースを取り、玄関までのアプローチ空間を取ると、どうしても建物配置は北に寄せられ、建物の北側は敷地境界から2mも空けることはありません。北側には擁壁か隣の家が建つ場合がほとんどなので、自分の家の影がブロックや裏の建物に投影され、北側は暗く風通しの悪い場所だというイメージが定着します。
欧米で、北向きの部屋が好まれる理由
では南向きの家が、実際に住んだ時に明るくて快適なのでしょうか?
土地購入前にそれを体験するには、旅行で列車や航空機、観光バスの窓側の席に乗ったことを想像して下さい。外の景色を眺めたくても、特に晴天で太陽が燦々と降り注ぐ日中は、ほとんどの窓は遮光スクリーンが下され、外を見るよりも「まぶしさを避ける」か「暑さを遮断する」という行動を多くの人がとっています。仮に少しスクリーンをあげても、逆光で景色を楽しむことも出来ず、室内からは北側の景色のほうがきれいに見えることに気づくでしょう。
欧米では、リビングや寝室など実際に住人が過ごす部屋は”北側が好まれる”傾向があるといいます。アメリカは敷地が広く建物がどの方角に向いても、日当たりも風通しも十分得られるため、建物の方角よりも「道路に面して玄関が正面に来る」というのが基本です。日本よりも緯度の高い国が多いヨーロッパでは、特に冬は太陽が低い位置から室内の奥まで陽が差し込むため、太陽の方角はまぶしく建物の影は長くなります。
上の画像はロンドン郊外の英国人のお宅を拝見した時の写真。
土地自体は南に面して日本と同様に車の駐車スペースと玄関がありましたが、南に面した日当たりのいい部屋は、普段家族は使わない来客用の応接間のようなゲストルームでした。つまり、日当たりや明るさを求める部屋は南には配置していないのです。一方、家族が過ごすリビングは北側に配置され、裏に面した庭と繋がっていました。裏の庭の奥行きが建物と同じくらいかそれ以上あるので、自宅の建物の陰で暗くなることもありません。
英国のイングリッシュガーデンを楽しむ生活は、産業革命によって大量に供給された工場労働者向けの住宅が、十分な採光の無い劣悪な環境で病気が蔓延し、その反省から、物理的にしっかりと採光が出来るような土地を区画し、隣に建物が建っても家族が生活する居室には光が取れるような敷地にしたようです。日本でも、昔の街道沿いの町家も、間口は狭くウナギの寝床状でも、中庭や坪庭から光や風通しを確保できるようにしていたのと同じように感じます。
洗濯物も含めて、欧米の人に聞くと「なぜ生地が痛み、色褪せもするのに、洗濯物やインテリアを直射日光に当て、紫外線にさらすのか理解できない」といい、大気汚染や花粉なども含めて、外気のほうが室内の空気よりも汚いから、洗濯物もベッドのシーツも外に干さないといいます。だから、わざわざ防水までして紫外線や熱にさらして外部にバルコニーを設け、そこに洗濯物を干さなければ気が済まない日本人の家づくりは、海外の人から見れば不思議に映るようです。下着泥棒もプライバシーや留守宅への気がかりも、外に洗濯物を干す習慣がリスクを増大させてさえいるのです。
もちろん、日本で南向きの土地が欲しいという方を否定するわけではありません。
しかし別の見方をして、もっと選択肢を広げ、建物の配置や建物自体のプランニングによって、懸念を解消する方法もあるということを知ってもらうと、土地探しや家づくりがもっと愉しくなるのではないでしょうか?