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若本修治の住宅コラム

2015.3.20 第106話

中古住宅マーケットの問題とは・・・

最近、国土交通省の音頭によって、中古住宅流通のマーケット活性化が図られようとしている。全国で不動産業者を中心にリフォーム業者や検査機関(ホーム・インスペクター等含む)をネットワークし、中古住宅の性能を高めて市場価値あるものにして流通量を増やそうというものだ。

 

現状認識として「20年程度で価値がゼロになる日本の住宅は問題」という考え方は大いに賛同する。しかし、そうなってしまった大きな原因が「中古住宅市場が未整備だったから」と建物の品質をチェックし、リモデリングで耐震性能や省エネ性能を高めれば、マーケットが活性化するというシナリオには少し首を傾げたくなる。

 

テレビで『なんでも鑑定団』という掛け軸や古い陶器など、自宅にある骨董品をプロが鑑定して真贋を確かめる番組が長年放送されている。ときには本物の「掘り出し物」が出品され、数百万円の価値を認められるケースがあるが、ほとんどは価値のない贋作を高く買わされ、後生大事にしまっていたということが発覚し、プロの鑑定団の数千円から数万円の評価にうなだれて引き揚げる人が跡を絶たない。価値が低いことを知っていて売るプロがいるのだ。

 

本当の「価値」は耐用年数や性能ではない

 

日本の中古市場が活性化しない理由が「市場整備」の問題という説明は、まるで『なんでも鑑定団』に出品される数多くの贋作・粗悪品が「骨董品市場の整備がきちんとなされれば、高く売れる!」といっているようなもの。売る側のモラルに委ねるだけで、業界の利益と経済の活性化には繋がっても、決して購入者の利益や地域の価値向上には繋がらない。鑑定(建築検査)をするホーム・インスペクターが売る側と結託していたら、骨董品と同じだ。

 

日本の中古住宅市場の問題は、むしろ新築で供給される住宅や住環境自体に問題の根っこが潜んでいる。中古住宅に限らず、長く使われるものには理由がある。それは「耐用年数」や「性能」の問題ではなく、所有者や地域の人たちが「そのまま将来に残したい」と思えるかどうか。愛着があり、壊すことが出来ないものは、たとえ補修をしてでも長く使われる。国宝や重要文化財に指定されている建物は、登録される前から地域の人々に愛され、落雷や火災にあっても再現され、数十年に一度の大修繕を経て現代に残されている。東日本大震災の津波で焼失した街が懐かしく再現したいという感情も、デザインや景観の問題よりも「将来に残したい我が町・我がふるさと」という意味が大きいだろう。新しいだけの住宅地には決して愛着は湧かない。

 

もちろん、私は『住宅性能表示』や『省エネ性能』を全て否定しているのではない。しかし、車の排ガス規制や燃費性能も時代とともに変化するように、住宅も時代によって求められる性能が変わってくる。だから中古住宅の売買価値が「性能」によって評価され、内部空間だけリニュアル・リノベーションされて、周辺環境との調和に関係なく高く取引されるという流れには少し疑問を感じざるを得ない。

 

性能や耐久性よりももっと大切なのは「残したい」と思える建物と周辺の環境を守ること。それは和風建築に限らず、明治から大正にかけて造られた洋館建築群も含めて『趣ある景色』や『情緒ある空間』、そしてそこに暮らす人たちの『良好なコミュニティ』を守りたい、将来の子供たちに残したいと思えることだろう。そこには、建物オーナー(施主)のエゴと、流行のデザインを追う建築家の共演でつくられる前衛的な住宅ではなく、次の代にも残し引き継いでもらいたい調和のある(普段着の)街並みと、資産価値が下がりにくい住宅を供給できるかどうかが問われている。

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