広島で「家づくり」のお悩みごとを丁寧に解決していく(コンストラクション・マネジメント)CMサービスです。

メールでのお問い合わせは24時間受付中!
12時間以内にお返事差し上げます!

若本修治の住宅コラム

2011.7.10 第62話

上空から見れば、環境負荷が見える?!

東日本大震災による福島の原発事故以来、以前にも増して多くの人や企業が「環境負荷」を意識するようになった。節電意識も芽生えて、メガソーラーやスマートハウスなど、エネルギーの効率利用に対しても、ビジネスチャンスと捉える企業が数多く出てきている。

 

住宅の断熱性能アップに対しても、フラット35Sや長期優良住宅ほか、国や行政も後押しし、省エネルギー住宅を推進する環境が整備されてきた。工務店グループの中では、高気密高断熱住宅の研究がさらに盛んとなり、一般消費者には馴染みのない「C値」や「Q値」などの性能競争もさらに激しさを増してきている。エアコン等の省エネ家電の性能アップも手伝って「小さなエネルギーで真冬でも快適な生活が出来る」と高断熱住宅に取り組む工務店はPRに躍起で、住宅の価格が高めに推移しているのが現実だ。

 

価格アップのために、補助金や税制の優遇措置などを行い、国は省エネ住宅の普及に誘導しているが、建物単体に高い省エネ性能を持たせ、その金額アップを消費者が負担する構図が本当に正しい方策なのだろうか。そして生活のスタイルは変えずに、使ったエネルギーを太陽光発電の搭載で「チャラ」にして『ゼロエネルギー住宅』という売り方が、ほんとうに地球環境の負荷低減につながるのか甚だ疑問だ。海外で省エネや地球環境負荷の軽減に取り組む地域を視察すると、単体建物の性能はもちろんのこと住宅地全体、もっといえば街や都市全体がコンパクトシティとなっている。人間の営み自体が環境負荷を増やすことを前提に、出来るだけ樹木や自然環境を残して、人が住むエリアは「高密度に土地利用」されていることに気づかされる。

 

先頃、房総半島上空の飛行機から下の景色を眺めてみた。房総半島にはそれほど高い山はないものの、山の中腹の谷間まで家々が点在していることに驚いた。空から見ると、人が居住すること自体が環境破壊であり、集落が点在していることがエネルギーロスを起こしていることが分かる。電気の送電ロスだけでなく、道路や水道、通信などのインフラ投資、災害防止のための公共工事やその後のメンテナンスなど、公共サービスにも多くの無駄が発生していることも容易に想像がつく。このような地域は高齢化も進んでいるので、介護や配達、買い物などに自動車を使う頻度が高く、鉄道やバスなどの公共交通機関は採算が合わなくなって、ますます効率的なエネルギー利用からは遠ざかっていくのが全国の過疎化・高齢化が進む地域の実態だ。

 

本当に省エネルギーや環境負荷の低減を考えるのであれば、スマートハウスなどの先端技術よりも、出来るだけ人間が住む影響を最小限にしたほうがいい。一戸建ての家の屋根に太陽光発電パネルが多数搭載されているのが「エコタウン」というのは「売るための方便」にさえ感じられる。

 

とはいえ現代人の生活にエネルギー利用は不可欠なので、再生エネルギーも含めた「個別分散発電」や「地域コジェネ」なども取り入れて、効率の良いエネルギー利用と、住宅の性能アップがセットになる必要があるだろう。そして一戸建てばかりではなく、セミデタッチドハウスやテラスハウスなど、連棟式の住宅で土地の利用密度を高め、家々が点在しないような街づくりが必要ではないだろうか。

 

ドイツで環境都市として有名なフライブルクでは、20万人ほどの地方都市ながら、路面電車をはじめとした公共交通機関の駅まで、徒歩で5分以内に住んでいる人が90%を超えているという。日本も建物単体で省エネを実現させるのではなく、車を利用しなくても生活できる場所の住宅供給や、街全体で環境負荷を増やさない取り組みに補助金を出すなど、従来の発想を転換していくことが必要だ。

一覧に戻る