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若本修治の住宅コラム

2015.5.20 第108話

「パッシブ」と「アクティブ」の違い

ここ最近『パッシブ・デザイン』など、住宅にパッシブという言葉をよく聞くようになってきた。日本ではOMソーラーが太陽熱利用の住宅を「パッシブソーラー」と呼び、ずいぶん早くから取り組んでいたが、エコロジーやバウビオロギーといった「自然派」の人たちも、環境負荷を増やさない住宅として「自然エネルギー」を有効に使うパッシブな取り組みを広げてきた。ドイツ発祥の「パッシブハウス」のほか、最低限の装置とエネルギーで、我慢することなく快適な生活を享受したいというニーズに応えている。

 

一方で『スマートハウス』など、設備機器を高度化し通信機能やセンサーなどを付け加えて、機械装置や電子機器によって快適で省エネの生活を享受できると積極的にPRしている『アクティブ・デザイン』も増えてきた。いずれもこれまでのようなエネルギーの浪費はやめて、エネルギーをマネジメントしていく、無駄をなくそうという思想は同じだ。しかし前者が小さな工務店でも組み立てやメンテナンスが出来るような簡易な装置しか搭載せず、建物自体の基本性能や方位などを重視して、その土地特有の太陽光や風といった自然エネルギーを上手に利用するという発想なのに比べて、後者は基本的に大手の設備メーカーやプレハブメーカー等を中心に、特定の技術者しか扱えない「メカ住宅」志向だ。メンテナンスも地元の職人の手に負えない複雑な装置が搭載され、次々と陳腐化されて、他社との差別化のため新製品が生み出されているのが現状だ。

 

職人の手間賃は地域経済へ

 

最新の機械装置とはいえ、設備は複雑になるほど必ず故障し、商品自体は陳腐化していく。また製品の仕様や組み立てはメーカーの独自開発によってブラックボックス化し、そのメーカーでなければ保証もメンテナンスも出来ないという部材が、住宅を構成する設備で増えていく一方だ。新築着工戸数が確実に減っていく中、設備メーカーも大量生産とメンテナンス契約によって売上げを確保する商品やシステム開発に躍起になるのは致し方ないことだろう。しかし住宅という地場産業で、出来るだけ人の手間を排除し、最新設備を搭載して機械によってエネルギーコントロールすることは、地元の職人の手間賃として支払われていた賃金が、大都市圏の大手メーカーに吸い上げられてしまうという側面も考える必要がありそうだ。欧米では、日本のようにユニットバスが9割を超えることも、鉄骨のプレハブメーカーが大きなシェアを奪うことも考えられない。部材や施工の標準化・単純化が進み、手間賃は地元で働く建設労働者に支払われ、地域にお金が回るのが一般的だ。

 

新築で組み立てる時だけでなく、メンテナンスや取り換えなども、地元の職人が対応できるような設計や仕様になっていれば、工務店自身も継続的に仕事が得られ、職人の仕事や技能も失われずに済む。メンテナンスに対応することで、リフォームや新築の紹介受注の機会も増えるだろう。一方、有名メーカーの知名度を利用して、最新の機械装置を搭載した家は、経年で陳腐化し、メンテナンスはメーカーを取次ぐだけ。新築時に売りやすく将来の手間も掛からない代わりに、機器の故障なので技術力を発揮することも、リフォームの受注に繋がることも減っていくだろう。まさに「売り逃げ」体質になっていくのは避けられない。

 

パッシブは、単に環境負荷を低減することだけではない。その地域の気候風土や、敷地自体の方角や周辺建物の状況にも配慮し、出来るだけ単純で故障しても容易に直すことが出来る材料・設備を採用して、地元の技術者と雇用を守ることに繋がっていく。持続可能な地域社会をつくるのが、地元の住宅産業の役割であれば、地域の人の手の届く価格で地元の雇用を守り、技術を伝承していくことが大切だ。

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