2013.11.20 第90話
ゼロ金利政策の弊害と旺盛な住宅需要の犠牲者
米国で発生したサブプライムローン問題は、与信に問題がある人でも、貸し手側が不動産の価値を担保することと、金利をリスク分高くすることで、莫大なお金が住宅投資に流れ込み、住宅バブルを生み出した。しかしバブル崩壊のツケは、個人の購入者が直接負うことなく、原因をつくった金融機関側が大きな痛手を負い、破たん処理や救済など、比較的早めに決着がついた。住宅金融が「ノンリコースローン」なので、少なくともプロ側にチェック機能が働く。
一方、日本では「個人の与信力」によって住宅ローンの額が決まる『クレジットローン』なので、不動産の価値よりもむしろ、本人の年収や勤務先などの「属性」により、どれだけ貸し出せるかが決まる。従って、公務員や一部上場企業など、大きな組織に勤めている人ほど、そして低金利であるほど、住宅取得に使えるお金が増えて、売る側としては「売る相手」のターゲットが絞りやすい。将来値上がりするような住宅地を開発し、街の熟成と共に不動産価値が上がるような努力より、大組織の福利厚生などに食い込み、職域内で営業攻勢を掛けるほうが、はるかに営業効率が高いということになる。割引制度を設けても、そもそも相手は本当の住宅の価値も適正な価格も知らないのだ。
モデルハウスと販売される住宅のギャップ
政府・日銀は、物価上昇率2%を目標に、マイナス金利だけでなく、あらゆる政策を打って、景気を刺激するという。特に住宅着工は景気に大きな影響を与える民間投資なので、高齢者世帯が蓄えた預貯金を住宅取得資金として贈与させたり、省エネ投資への手厚い補助金など、大盤振る舞いで住宅投資への刺激策を講じている。それに呼応して、大手ハウスメーカーは「スマートハウス」や「ゼロ・エネルギー住宅」など、“住宅単価の向上”に余念がない。将来住宅の価格が上がるかも知れないという「物価上昇懸念」を演出させることが政府の意に沿うことであり、目先の負担を和らげる政策として、低金利や補助金によって「今が建て時!」というセールストークを邁進させている。
実際に某大手ハウスメーカーの平均建設単価は、2010年の3,172万円から4年後の2014年には3,565万円となり、毎年100万円近く建築費が上昇している。3%以上の物価上昇だ。人口減少で確実に着工戸数が落ち込む中、営業利益は安定して維持できているというから、客単価(1棟あたりの建築費)を会社ぐるみで“人為的”に上げているのは間違いない。建物の価値判断や不動産価値の査定に、金融機関側のチェック機能が働かない日本の住宅では、購入者の支払い能力と、住宅供給者のブランドイメージだけで、住宅の価格が決められると言っても過言ではない状態だ。
住宅の一次取得層は、政府が発信する様々な住宅取得優遇策や低金利、住宅販売業者や金融機関による「今が買い時」のPR作戦に浮足立って、イベントをきっかけに住宅展示場に足を延ばす。そこには、広い敷地に1億円程度掛けた立派なモデルハウスと、しっかりと営業教育された従業員が待ち構え、土地探しから住宅のプランニング、資金計画まで至れり尽くせりで住宅購入のシナリオが提示される。そこから逃れるのは至難の業と言ってもいいほどだ。
しかし日本の住宅金融は、建物の価値判断は全く行わず、将来売却した時の市場価格も査定することなく、ハウスメーカーの言いなり価格で融資の承認を行う。担保となる土地と本人の返済能力だけが頼りで、どんな家が建とうとも興味もなく、購入者本人任せで契約を結び、建築がスタートする。実際に家が建ってみて、周辺の住宅と比べて初めて「自分の予算が少なかったから、こんな家しか建たなかった」と、業者ではなく自分を責める購入者が少なくない。