2019.6.20 第156話
空き家率のマネジメントと地価推移の関係
前回のコラムでも、日本の空き家が846万戸と過去最多を更新したことを紹介した。空き家率は13.6%になり、今後も減ることはなく増える一方だ。この数字を「失業率」で考えれば、何か手を打たなければ暴動が起きかねないと、政府もあらゆる手をつくし、数字の改善を試みるのだろう。しかし空き家率は統計データを取るだけで、問題意識はあっても率を低下させるようという意思も、具体的な策も全く講じられていないのも同然だ。ただ『空き家対策特別措置法』が出来て、あまりにも危険性があり周辺の環境に大きな影響を与える老朽家屋のみ「特定空家」として認定し、自治体が撤去の指導や命令が出来、行政代執行も出来る「焼け石に水」の対策だけが出された。しかし老朽家屋、長年の空き家を解体・除去するだけでは問題は解決せず、数字も改善しない。
失業率は、直接国民生活に影響を及ぼし、所得税や住民税収入にも跳ね返る。5%を超えると大きな社会不安にもなるから、行政も出来るだけ低く抑えられるようにマネジメントする。しかし、空き家率は入居者がいないだけで、直接住民や自治体に短期的不利益を与えるものではなく、そもそも固定資産税も小さいから、20%を超えようとも、それが直ちに近隣住民の不安や自治体への影響に直結することはない。病魔のように少しずつ地域にダメージを与え続けていき、気づいた頃には空き家率の改善は絶望的だ。
欧米の空き家率マネジメントに学ぶ
空き家問題は日本だけではなく、世界中に存在している。それは失業率の問題と同じく、住民の数の変化と建物数の増減によって、ある一定程度の「余裕」が必要だと考えれば、入居者募集中の住宅(=空き家・空き部屋)が一定量あることは社会的にも望ましい状態だ。そうでなければ住む場所、住む家の選択肢が限られ、価格は高騰し、社会不安が広がるだろう。だからこそ欧米の先進国では、需給のバランスを考えて、失業率同様、住宅の空き家率も政府や地方自治体が、目標となる適切な水準を数値でマネジメントしているという。都市の規模や国によっても異なるものの、ドイツの中小都市で4%にコントロールしていると聞き、驚いたことを覚えている。まるで為替や金利と同様、実際にはそれ以上に地域経済に大きな影響を及ぼすから、変動をコントロールすることが自治体の役目になっているということに頷かされた。そのコントロールなしに、住民の人口動態や公共インフラの投資、地価水準の安定化が図れず、自治体経営の計画立案もできないという“重要な指標”だということだ。
考えてみれば至極当然のことで、空き家率があまりにも低くなり、入居者募集中の住宅・部屋がひっ迫すれば、新築の需要が高まり、用地確保が必要になる。逆に空き家率が高まれば、新築の許可を数量コントロールし、乱開発がされないように土地の売買も抑制して、環境保護に力を入れることも可能だ。将来の人口動態は、ほぼ数字が読め、都市計画上開発を優先すべき地域も自治体が把握できているから、都市を拡大するためのインフラ投資や建築許可、新築住宅の供給数は、自治体がコントロールすることが、無駄な公共事業や、公立学校の新設・統廃合、道路渋滞の発生などを未然に防ぐことが出来るということだ。受給をコントロールすることで、地価も安定的に上昇し、自治体の大きな収益源である固定資産税収入や都市計画税も計画的に増やすことが出来る。実際に購入した住民たちも、住宅取得が将来の資産形成に繋がるという“好循環”を生み出す。これは民間では不可能で、自治体のみが立案し、実行できる都市の安定的運営だというのが、欧米の都市経営であり都市計画の基本らしい。これは大都市に限らず、地方の中小都市でも実践可能だ。
私が住む広島市では、ここ数年住宅地の地価が急騰していると言ってもいい。そのメカニズムは3か月前のコラム第153話『日本の不動産市場は「椅子取りゲーム」か「花見の場所取り」か?』に書いた。この状態は地域間競争を考えた時、岡山市と比べて住居費負担に1千万円以上の格差が生じており、地方への移住先を比較した時にも重要な要素となり得るだろう。同じような都市の規模、利便性で、不動産価格がピークで将来下がっていく地域(広島市)と、比較的不動産価格が安く、将来上がる可能性がある地域(岡山市)とで、移住希望者が何を判断材料として、どう選択するか、それは自治体側がコントロールできない。出来るとしたら、後者になるような都市経営を行い、その実態を移住者や現在の市民に適切に情報公開をして、選ばれる理由と魅力を訴えることだろう。そのためには、空き家率の改善とコントロールが将来の重要な指標になることは間違いない。