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若本修治の住宅コラム

2022.2.20 第181話

短命に終わる日本の住宅は「敷地」に原因あり?

 欧米の住宅と日本の住宅を比べて、圧倒的に違うのが建物の寿命。単に“物理的な耐用年数”だけでなく、中古住宅の取引が継続的に続けられるという“社会的寿命”も長いのが欧米の住宅だ。つまり、一度住宅を建てると所有者が何度も入れ変わることが当たり前で、リモデリングやリノベーションを繰り返し、中古住宅市場で取引する価値が続くというのが先進国の常識だ。しかも一般的には“物価上昇分以上値上がりする”ことを期待され購入している。一方、日本では新築から入居した家族が、そのまま他人に所有権が移ることなく最終的に空き家となって、相続人たちさえそこに住まずに廃屋状態になる住宅が今や少なくない。本来、固定資産である住宅が、消費財のように“使い捨て”となっている。

 固定資産とは、適切なメンテナンスを施すことで、古くなっても“使用価値は続く”財産であり、数字の上では税制上の負担軽減のための「減価償却」が計上できても、減価償却後にこそしっかり稼げるのが、長期負債で取得する固定資産の本来の価値だ。企業であれば、不動産に限らず機械装置でも同様だろう。特に、欧米では不動産は個人にとっても「キャピタルゲイン(=売買利益)が得られる投資」であって、それは投資用不動産だけでなく、個人住宅も同様だ。土地と建物を別個の固定資産とする考え方は欧米にはない。造成や整地された擁壁などの土木的人工物を土地と切り離して償却資産としないのと同様、建物の基礎や躯体は“土地に定着した一体の加工物”だというのが欧米の常識になっている。

 

■敷地と建物は一体不可分の資産

 

 日本でも、建築基準法上は「原則一敷地一建物」となっており、トレーラーハウスのようにタイヤ付きで移動可能な仮設の住宅以外は、建物は土地に定着している。だから動産ではなく“不動産”として評価される。しかし日本では、建物の耐用年数が30年程度とされているから、一般の戸建住宅は「30年後は更地になる」ことも視野に入れた土地活用、住宅供給が行われている。不動産・住宅業界にとってみれば、同じ建物をリノベーションしながら何世代も使われ、取引されるよりも、一旦更地にしてその時の経済状況や社会ニーズに応じて、土地の区画割りも含めて選択肢を広げるほうが、商売としてメリットがある。日本はスクラップ&ビルドによって経済成長を遂げ、新築需要を追い求めるのが住宅産業のメインストリームになっている。

 だから地価上昇によって、従前と同じ敷地では購入希望者が手の届かない価格になれば、実質的に建物価値は無いから建物は取り壊し、敷地を分割して、ミニ分譲のような間口が狭く庭のない住宅が建てられていく。風通しや日当たりも悪くなり、プライバシーも犠牲になってお隣の声や音が聞こえても、分譲業者にとってはお構いなし。そのほうがよほど儲かるから、昔のゆとりある敷地や緑豊かな周辺の環境は悪化していくばかりだ。自治体にとっても、住民が増え不動産取得による固定資産税の税収増と、着工統計の数字は経済指標として大事なので、日本では新築抑制へのインセンティブは働かない。

広島市西区で実際に不動産サイトに掲載されていた土地。一戸建てが建っていた100坪を超える土地は、相場的に1億円を超えるので、旗竿状に3つに分割されて売り出されていた。2m幅の通路は、車を駐車するしか使いようがなく、荷物を持って通るのも不自由な敷地形状だ。

 

■英国のイングリッシュガーデンに見る庭の重要性

 

 日本と同じ島国ながら、古い建物を大切にし、住宅の寿命が長いイギリス。築70~80年はザラにあり、100年を超える住宅が現役で使われて、中古市場でも売買されている。私も2010年、東日本大震災の前年に世界で最初の田園都市『レッチワース』など、イギリスの住宅地を視察した。驚いたのは、車の駐車スペースや玄関アプローチとなる前庭よりも、住宅の裏にその建物の奥行よりも長いプライベートガーデン(裏庭)があり、お互い裏庭同士が生け垣で背中合わせになっていた。つまり裏の隣家まで自分の裏庭が10m+お隣の庭も10m程度あることで、建物同士は20m程度離れているから、数十年先でも採光や通風などの環境が変わることがないことを確かめられた。

 

見学させてもらったハーロウの1937年築の英国人の家。リビングから直接裏庭に出ることが出来る。

リビングから裏庭に出てプライベートガーデンから建物の裏側を見る。しっかり手入れされたイングリッシュガーデンは、裏庭からでも正面のファサードのように見える。ホストの英国人夫妻から紅茶とお菓子でもてなししてもらった。

 

 日本の分譲地では、郊外の広めの敷地でも、裏庭は通路程度しか奥行きがなく、すぐ裏にはお隣の軒が重なるくらいに接して、日当たりの悪い状態が普通だ。しかも築後30年以上経って中古で販売されると、広~い敷地は土地価格の高さから避けられ、2~3分割されて、ほぼ駐車場確保が目いっぱいの狭小住宅が建てられる。町並みの環境は悪化し、景観も損なうばかりで、比較的所得水準の高い人達が住んでいた良好な住宅地が、そのブランド人気が故に、敷地を細分化しても売れて、環境悪化と資産価値の低下の悪循環に陥っている。そんな閑静な住宅地に古くから住んでいる住人は、土地の固定資産税負担が増えるだけで、相続で家族が揉めたり、税負担のために建物ごと広い敷地を売却せざるを得なくなって、さらに環境悪化の連鎖になっているのが地方の高級住宅地の宿命になりつつある。下の画像を見ても、新築時にそんな運命が埋め込まれていることが分かる。

広島市郊外の人気の住宅地。各メーカーがモデルハウスを建てて住宅展をした”各社自慢のモデルハウス”でさえ、屋根形状がバラバラで、裏庭は将来メンテナンスも困難なほどせり合っている。

 

 一方、英国の一般市民が住む住宅は、道路に面した敷地の間口自体、日本の団地とほとんど変わらないから、瀟洒な小規模住宅に見えるが、実は裏に広~いイングリッシュガーデンが確保され、将来に亘って所有者のみのプライベートガーデンとして利用できる。その緑の空間が、生活の豊かさに繋がり、敷地も含めた住宅全体が資産価値維持に繋がっていることが理解できた。もちろん間口は広くないから2分割して新しい家を建てようということにはならないし、「デュプレックス」と呼ばれる長屋形式の連棟住宅も多いから、そもそも敷地を細分化して儲けようという不動産業者もいないのだろう。庭に手をかけられる余裕は、その不動産を売却すると、確実に購入時よりも値段が上がっているからであり、ガーデニングが家族の精神的豊かさのみならず、経済的にもプラスに働くから、建物も庭も適切なメンテナンスを続ける。最終的に「バンガロー」と呼ぶ平屋の小さな家で生涯を終えることが英国人の夢だということだ。空き家ばかり増加する私たち日本人に、そんな夢が描けるだろうか・・・?

Google Earthで見たロンドン近郊の一般的な住宅地。道路に面しては建物は密に並んでいるが、裏庭が向かい合わせになっているから、日当たりも通風も十分確保でき、お隣同士も適度な距離を保つことが出来ている。表から見ただけでは決して分からない豊かさがある。

日本で見る典型的なミニ開発。左隣はミサワホームのセラミック住宅で、同等の広さのお屋敷が建っていた敷地でも、不動産業者が買えば、写真のように3つに分筆して3棟の建物で分譲される。残念ながら英国と比べて、豊かな住環境やゆとりなどは感じられない。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

 

 
ロンドン郊外のハーロウ・ニュータウンで視察させてもらった英国人が暮らす住宅。1937年に建てられ、入居している英国人夫婦は築50年の住宅を17万5千ポンドで購入。小屋裏などを増築し、入居25年で約4倍の価格相場になっている。
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