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若本修治の住宅コラム

2011.4.12 第59話

東日本大震災復興私案

2011年3月11日、未曾有の大地震が東北地方から関東まで襲った。地震のマグニチュード9.0はそれまでの記録に残る震度をはるかに超える有史以来の破壊力だ。しかし、震災よりも地震後に発生した大津波と原発事故が、地震以上に被災地域を壊滅状態にした。震源地に近い宮城県の三陸海岸だけでなく、福島県や茨城県、千葉県の旭市など、海岸線にある市町村は壊滅的な被害を受けている。

阪神淡路大震災やこれまでの大規模震災と大きく異なるのが、建物の倒壊だけでなく、自動車や船までもが津波で流され、どこが道路でどこが敷地なのか分からないほど多くの町が壊滅状態になったことだ。災害で亡くなった方もがれきを撤去すれば見つかるという状態ではなく、どこに流されてしまったのか、皆目見当のつかない行方不明者もたくさんいる。

まずは人命救助が最優先で、避難所生活から、仮設住宅に移り住み、最終的には以前の生活に戻れることが被災者の望みだ。

しかし、人々が元の生活に戻るためには、時間だけではなくとても大きなお金が必要だ。資産や家族だけでなく仕事場まで失った人が多い状態で、仮設住宅に移り住むだけでも低い確率の抽選に当たらなければ避難所生活が続くという。個人や地元企業、地方自治体の力では、どうにも出来ないほどの大きなつめ跡を今回の震災は残した。

そこで実現可能性は別として、私なりに原発汚染地域も含めた東北地域の復興私案を考えた。安全な場所で仕事をしている私では、直接何も出来るわけではないが、これまでの経験で発信できるせめてもの情報だ。

1.津波の被災地は、国が買い取り、自然保護区に

津波被害の大きかった海岸線は、過去を紐解くと百年に一度程度、大地震で津波被害を受けている。今回は7mのスーパー堤防も越えて、街を飲み込んだという。津波に限らず、土石流やがけ崩れ、活火山近くの火砕流、雪崩など、本来は安易に人が住んでは危険な地域に住宅地や街を広げてきたのが、甚大な被害をもたらしているひとつの要因だ。
阪神淡路大震災でも、被害の大きなところは旧河川だった場所など地盤が弱く埋め立てや造成などを行った場所が多かったと聞く。

今回津波に襲われた地域の平野部は、がれきを撤去する前に「すべての土地を国が買い取ります!」と宣言したらどうだろう。超法規的に私有財産の権利を抑えるのだ。その代わりに土地に対する固定資産税の評価の何割かを査定し、まずは安否確認できた被災者には出来るだけ迅速にキャッシュで配る当面、数か月分の生活費がキャッシュで入れば、先の見えない不安は一時的にでも解消する。ただし、賃貸住まいだった方は、震災で失われた資産はわずかで、土地に縛られる必要がないので、残念ながら新たな生活の拠点を探さざるを得ない。いずれにせよ被災地からの移動を促し、原爆投下後の広島のようにバラックなどで無秩序に街が再生されないよう私有財産でも制限を加えることと被災者にキャッシュを配ることは早く実行したい。

人が日常的に住まないのであれば、大規模な農業用地として整備し、地元農業者に貸し付けてもいい。その場合、農業者側も大規模化して従来よりも効率の高い農業生産を目指したい。
「強い農業をつくる」という夢を与えるのも国のビジョンになりうると思う。

2.高台の安全な場所に新しい街を開発

ダムで水没する村の住人に、新しく住宅地を開発するのと同様に、まったく新しい街をつくりたい。エネルギーもその街で完結する「地域コジェネ」を併設し、21世紀型の環境重視でコンパクトな街だ。石油資源も枯渇する時代、自動車を中心とした社会から脱皮した街づくりをしてもいい。環境先進国のドイツや海抜ゼロメートル地帯が続くオランダなどに、参考となる街は数多くある。

その街づくりの担い手として、被災して仕事を失った地元の人たちに参加してもらいたい。
建設作業はつらく厳しい仕事かも知れないが、それで自分たちの街が復興し、建設費を浮かせることが出来れば、県外の大手ゼネコンやハウスメーカーに頼むよりもよっぽどいい。
仕事がないまま再就職先を探すよりも、仕事のある喜びや街が出来上がっていく喜びを感じてもらうのは、精神的にも張り合いが出来ると思う。

新しい街は、出来るだけ木造で造りたい。県内産の木材を使い、お金が地域の中で循環することが望ましい。復興は時間が掛かるので、街が復興するまでの期間限定で、被災者が林業に従事してもいいと思う。山を守ることが、海を守ることに繋がることも実感出来るし、県内で当面の仕事の場を提供できる。

3.地場産業の復活と新産業の開発

東北地方はやはり地場産業として「水産業」や「農業」「畜産業」の復活が欠かせない。しかし、漁船や漁具などを失い、原発事故の風評被害で受けた農林水産業者のダメージは大きい。すでに借金などが出来る余裕がなく、廃業を考えている人たちも少なくない。

だから、これまでのような個人や零細企業ではなく、大規模化した協同組合や法人による経営に移行し、経営の効率化も図りたい。そうすれば、漁船や船具の購入など設備投資は「復興特別債」などを発行して資金調達し、使用者にはリースなどで貸し付けることも可能だ。高額な機械等を自己所有する必要が無く、働きの中から支払っていける。

新しい街が出来たら、漁業者も農業者も、安全な街から通勤するという新しいライフスタイルになるだろう。新しい業態になれば、新しいサービスも生まれる。
海岸線が美しい自然を取り戻せれば、観光資源としても注目されるだろう。あえて護岸工事はせず、波打ち際を楽しめるような、海が間近に感じられる場所があればいい。もちろん、地震や津波対策として、すばやく避難できる待避所は準備したい。

また、環境を重視したコンパクトな街づくりをしていく中で、新しい環境技術やエネルギー開発を次の産業として育成したい。いくつか経済特区をつくり、世界中から企業誘致を図り、シリコンバレーのような産業集積が出来れば新しい雇用も生まれる。

寒い地域だからこそ生まれる省エネ技術や建築技術も、温暖化対策が必要な日本全体の宝になる可能性を秘めている。

ダブルスネットワーク(株) 代表取締役 若本修治(中小企業診断士)

若本が陸前高田市を視察した時の画像。津波の破壊力のすさまじさは絶句する
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