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若本修治の住宅コラム

2012.8.10 第75話

「ふぞろいの林檎」と「不揃いの住宅地」。

80年代の前半、TBS系列のテレビドラマで『ふぞろいの林檎たち』という番組が放送されていた。三流大学に通う個性豊かな「落ちこぼれの学生たち」の人間模様を描く、若者に人気のドラマだった。主役のひとりだった中井貴一と同世代の私は、時代背景も重なり、ある種の共感を持って登場人物の男女の物語シーンを追っていた。

 

「ふぞろいの林檎」というのは、規格から外れてしまった落ちこぼれを暗示させるもの。逆説的に考えれば、りんごなどの果物は、店頭に並ぶ段階で規格化され揃っているのが「当たり前」ということだ。そこには家族が自宅で食べる「食物」としてではなく、市場に流通する『商品』としての果物に規格が求められている。その選別はTPP問題で揺れる地域の農協(JA)が運営する選果場で仕分けされ、大きさだけでなく、色味や糖度なども揃えなければ、日本の厳しい消費者のニーズに応えられないのが現実だ。

 

一方、同じように昔農地や山林だったところに手を加え、住宅地として分譲された不動産はどうだろう。元々民家や道路などがあったとしても、人間が人為的に区画割をし、購入者のニーズにあう大きさや価格に「規格化」することは十分可能だ。しかし実際には最初の形は崩れ、いびつな土地しか残っておらず、新たに土地を求める人は、狭小地や変形地、そして利便性の悪い郊外団地を選ぶしかない状況に陥っている。ある程度予算のある人でさえ、自分たちが求めるエリアで希望条件に沿った土地を見つけるのは容易ではないのが実態ではないだろうか。

 

つまり、自然の中で栽培された果物でも、購入者のニーズに応じて形を整え、規格外のものは格安で販売されるか、ジュースや家畜の飼料としてしか価値が認められないのに、勤労者にとって高額な資産である住宅地が、人為的に区画割されているのにも関わらず、購入者のニーズに応えるような土地(商品)が少ないのだ。しかも、狭小地や変形地でさえ、周辺の土地価格と同等な坪単価で販売され、場合によっては「希少物件」として、マンション用地のような広い土地よりも坪単価が高いことさえ珍しくない。

 

このような状況が、土地なし客の新築の相談に乗っている日本の工務店経営にも大きな影を落としている。土地がなければ建築できないので、住宅建築を受注するためには、相談者の土地探しを手伝うか、自ら土地を仕入れて顧客用の住宅用地を確保するしかない。本来「住宅建設のプロ」がすべき以外の業務もこなさなければ、建築の仕事にありつけないのだ。経営にとってそのロスは決して小さくない。

 

しかも、建築業者という半ばプロが探しても、施主が求めるような条件で、良好な土地が見つかることはまれだというのが日本の住宅事情の最大の問題だろう。ここに欧米のような良好な景観をつくれない原因があり、また工事以外にあまりにも多くの時間とエネルギーを費やす工務店が、現場での生産性向上に取り組む意欲に欠ける要因にもなっているように思う。狭小地や変形地ではプランの標準化も施工の効率化も容易ではなく、個別対応になって、価格が高く歯並びの悪い街並みが再生産されていくだけだ。

 

この状況を改善するためには、やはり「不揃いの住宅地」しか出てこない日本の不動産マーケットを改善していく必要があるだろう。きれいに区画割された新興住宅地やミニ開発の宅地は、ハウスメーカーの建築条件付きやパワービルダーや建売業者の自社分譲地がほとんどで、注文住宅を扱う中小工務店では建てるチャンスはわずかしかない。

だからこそ、工務店が「施工計画立案」以降の業務に時間とエネルギーを集中するために、土地探しや見込客発掘、顧客ニーズの把握は、別の『エージェント機能』が必要だ。

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