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若本修治の住宅コラム

2013.2.10 第81話

マンション建替えは経済対策か?

今の日本はデフレを脱却し、経済成長に繋がるものであれば、あらゆる手段を使って景気を刺激したいと考えているようだ。マンション建替えに対する規制緩和もそのひとつ。老朽化したマンションの建替えに対して、規制改革を討議している有識者と言われる人たちが「老朽マンションの建替えの規制が緩和されると、公的資金を使わず民間資金でもの凄い経済効果があります!」と発言しているのを聞いてゾッとした。区分所有者の議決権をもっと緩やかにして、容積率も緩和し、マンションを高層化することが、目先ですぐに効果の出る経済対策として議論されている。

 

老朽化したマンションの問題は、もちろん耐震性能や設備の更新など、建物のハードの問題で放置できない状況のマンションも増えている。しかし一番の問題は、老朽化したマンションの住人自体も高齢化し、ローンの支払いを終えて年金以外の収入が見込めない人たちの割合も増加していくということだ。マンションの管理費と修繕積立金を支払っていれば、生涯住む場所に困ることがないだろうと、つつましやかに生活している高齢者に、建替えの話が降って湧けば、年金暮らしの高齢者にとって簡単に用意できるような金額で建替え後のマンションに住める状況にはならないのは明白だ。しかも建替え決議要件が区分所有者の2分の1程度に緩和されたとしたら・・・。

 

現在の厳しい建替え決議が必要な状況でも、建替え決議に反対した住人が、猛暑日の続く真夏に強制執行されて野宿を余儀なくされるような事件も発生した。建替えに反対し、損失補償のお金で高齢者が新たな住処を探し、賃料負担していくのも容易ではない。建替えの原資を調達するためには、容積率の緩和などによって建物を高層化し、保留床を売却するということが行われるが、マンション販売業者や建築を請け負うゼネコンが潤うだけで、従前から入居していた人たちにとって、引っ越しに伴う精神的・経済的負担や建替えに伴う追加負担は重荷でしかないだろう。

 

問題先送りのマンション建替え事業

 

欧米ではビルやマンションでも50年以上現役で使われている建物は数多くある。世界的に有名なニューヨークのエンパイヤステートビルも、世界恐慌の真っただ中の1931年に竣工したので、すでに80年以上経過しても多くの人々に愛され現役で使われている。しかし日本の分譲マンションで60年以上も現役で利用され、地域のランドマークとして愛されるような建物はほとんどない。しかも建替えを余儀なくされると、従前よりも高層で建物規模が大きくなり、多くの場合、周辺環境へもプラス影響よりもマイナスの影響のほうが大きくなることも避けられない。

 

今後も人口増が見込まれる三大都市圏の中心市街地であれば、マンションの高層化や大規模化も、昼間人口を増やし、通勤などのロスを減らして都市のスプロール化を止めることに効果があるだろう。しかしそれ以外の地方都市で無秩序に分譲されたマンションでは、人口減少と賃金の低下、維持管理コストの上昇は避けられず、田舎に戻って実家を継ぐために都会のマンションを売却、賃貸に転用したり空室も増えて来るだろう。そんな状況の中で、今後増加する地方の老朽化していくマンションを、経済対策として建替えしやすいように規制を緩和し、建替えを誘導することは、さらに将来問題を先送りすることにほかならない。

 

マンションの規模にもよるが、むしろ低層高密度のテラスハウスに建替えるなど、周辺の環境にプラス影響を与えるような新しい住宅地の開発が行われ、住民のコミュニティが身近に感じられるように、新しい規制や政策誘導が行われた方が地域の住民や地域経済にもプラスになりそうだ。

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