2014.6.20 第97話
超高層マンションが地域と将来にもたらすもの
バブル崩壊後に金融機関が抱えた不良資産や工場移転後の跡地などを再開発して「良資産化」するために、小泉・竹中構造改革以降土地の容積率を緩和し、首都圏において数多くのタワーマンションが建てられてきた。そのうねりは地方都市にも波及し、政令指定都市をはじめとした地方の主要都市でも超高層マンションのプロジェクトがいくつか進んでいる。私が住む広島市でも例外ではなく、財閥系の大手不動産会社とスーパーゼネコンがタッグを組み、JR広島駅南口や広島大学跡地など、都市の中心部で利便性の高い場所に先ごろタワーマンションが着工された。
「中四国で一番高い建物」といった形容詞は、自分たちの街が都会になったような気分で誇らしく、その都市景観は住民だけでなく、域外から来た人たちに対しても都市の印象が高まるのかも知れない。しかし地方都市の一等地に建てる建物が、地域にとって何をもたらし、時間軸で考えたらどのような影響が考えられるのか、単に景観や土地利用といった側面だけでなく、複眼的に考えなければならないだろう。本来その一等地は、地域の人たちにとって将来に渡って市民益を得られるよう、行政によって都市計画がなされ、土地利用の詳細計画が策定されるべきだからだ。
「地域経済循環率」と「交流人口」
安倍政権の金融・経済対策によって、首都圏と地方都市の格差がさらに広がっている。少子高齢化と人口減が進む地方では、限られた財政の中でインフラの整備や維持管理、経済の活性化や交流人口の増加など、来たる都市間競争に生き残るため、自治体も様々な取り組みを行っている。その一環として、市内の一等地に眠る「遊休地・未利用地」の利活用が経済対策としても注目されてきた。完成予想CGで提案される超高層の都市の景観と、遠くからでも大型クレーンがいくつも動いている情景は、街の発展を予感させ、何も知らない多くの人たちは諸手を挙げて喜んでいる。
しかし、このプロジェクトの建設投資は地域の外から行われ、完成して数年で『マンション分譲の売上げ』として、地域の外に流出していく。タワーマンションは高層階ほど高額で、この地域に住む富裕層が今住んでいる住宅を損切りして売却、移り住んでくるか、投資マンションとして地域外の富裕層が購入するから、そのお金はほとんど地域を循環しない。東京や大阪に本社がある大手デベロッパーやスーパーゼネコンに吸い上げられていくだけだ。その上、このプロジェクトでは中層階は「賃貸マンション」なので、雇用創出やオフィススペースの供給はほとんどなく、この場所で地元に収益をもたらせ雇用を拡大するような「経済効果」は将来に渡ってほぼ見込めない。
そしてこの都市景観は首都圏や関西圏では珍しいものではなく、ホテルなどの宿泊機能もない住居専用高層ビルなので、地域の外からの観光客やビジネス客も呼び込めない。結局内需にも貢献せず外貨も稼げず、市内有数の一等地を提供するということだ。低層階には商業・業務ゾーンとしてテナントが誘致されるものの、市内の他の商圏のお客が地域内で移動するだけで地元客の奪い合いが起こるだけであり、首都圏の有力テナントの誘致となれば、地元市民のお金の域外流出を加速化させるだけでしかない。
さらに30年後や60年後といった時間軸で考えると、人口減少に見舞われた中で大規模修繕や建替えを検討しなければならず、当初の購入者で住み続けている人は僅かだろう。この建物を維持管理し、都市景観を守ることが本当に可能なのか、今誰も想像していない。大都市の真似をして表面的に都市景観をつくるより、地元中心に身の丈の開発を行い、持続可能な地域をつくることが何より大切だ。