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若本修治の住宅コラム

2016.7.20 第122話

建物の維持管理コストと発注者の意思決定を考える

人口減少が進む中、経済成長を持続させるために、政府は「機動的な財政政策」(=公共事業による政府支出・需要創出)と「民間の建設プロジェクト誘発」(=低金利による新築需要への刺激)が必要だと、未だに『フロー経済』を重視した政策や補助金等が目白押しとなっている。オフィスビルもマンションや戸建て住宅も、すでに飽和状態にあって、空き家や空室が社会問題化しているのにも関わらず、目先の景気が大事だとばかりに、高止まりしている資材や労務費を負担してでも、新しい建物が供給され続けている。今もスクラップ・アンド・ビルドは止まらない。

 

もちろん国全体のGDP(国民総生産)という数字でみれば、公共や民間の建設プロジェクトが人口と同様に縮んでいくと、日本の衰退を予感させる。しかし今の建設投資がかなり割高で、しかも借金で賄われ、将来の維持メンテナンスにも多大なコストが掛かるのであれば、話は別であろう。建築時の「イニシャルコスト」も、建物使用スタート後の「ランニングコスト」もしっかりとしたコストマネジメントがなされないまま発注されていたら、お金は「垂れ流し」同前で、持続可能な社会は遠のくばかりだ。

 

左上の画像は、私が住んでいる大型団地にある機械式駐車場。入居後20年経ち、地盤下に2段分格納される三層構造の機械式パレットは、次第に部品交換やメンテナンス費が増加し、部品の在庫も無くなって、新しい安全対策の法律が施行されると「既存不適格」となることが確実だった。本来の『大規模修繕計画』では、5年後の更新ですべての機械を取り換えるという予算組みをしていたものの、その時に施行されている法律に合わせて更新すると、今の修繕積立金では賄えず、各住戸が数十万円の追加の一時金負担をし、さらに月額の管理料まで増額されるというシミュレーションが管理組合から示された。裏では維持・管理費によって会社を維持しているマンション管理会社の存在があり、その見積が根拠となって理事会で説明されている。

 

個人の住宅と異なり、区分所有で「共用部分の維持・管理」は、住民で構成される管理組合の総会決議に寄らなければ修繕や更新の意思決定も出来ない分譲マンション。しかし私が住んでいる1千戸を超えるようなマンモス団地になると、様々な知識や経験を持つ住人がいて、自ら負担する費用の軽減や資産価値維持に関して、共通認識が出来れば、同じベクトルで協議し、前向きな意思決定が可能だ。

私たちは、予定通り更新するまでの5年間の維持・管理費用や現在とほぼ同グレードで新しい法律に合致した機械式駐車場の見積と、法改正前に住民の合意を取り付け、劣化がしにくくメンテナンスコストも抑えられる「亜鉛メッキ仕上げ」の機械式駐車場のコスト、さらに自走式立体駐車場や平面駐車場用地の取得などを比較し、住民自ら意思決定を行った。入居後20年間不勉強で、管理会社に搾取されていた管理費や修繕費用なども適正化が可能となり、修繕積立金にも余裕が生まれたのだ。

 

建物も景観も20年間しっかりと維持されているのにも拘らず、売却時に大幅な資産価値下落に遭っているのは、築年数よりもむしろ、都市圏内で最も高いといわれる「管理費」や「修繕積立金」が、住宅ローンの借入額に影響を及ぼすほどの負担になっていることも、住民にとって周知の事実だった。一方で、住環境に比べて価格が割安なので毎年1割の住人が入れ替わり、空室や入居者の固定化、高齢化は周辺の団地と比べ物にならないほど低く、また住民コミュニティも比較的維持されている。これまでのフローの経済からストック経済に移行するには、建設時から維持管理まで、住民が意思決定するための「情報の開示」と「合意形成」「建設マネジメント」の仕組みが欠かせない。

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