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若本修治の住宅コラム

2016.11.20 第126話

「雇用」と「中古住宅」の流動性の共通点

『一億総活躍社会』を実現させるという政府の方針によって、「待機児童ゼロ」や「介護離職ゼロ」を目指すためにどうすべきかが今日本国内で議論になっている。子育て施設や介護施設が足りないから、規制を緩和し施設の建設やそこで働く人たちの労働環境の改善、大都市から施設の余裕のある地方への移住を促すなど、いろいろなアイディアが総動員されている。そこには福祉予算や建設費用など様々な補助金・助成金が盛り込まれようとしている。

 

報道番組を見ていると、東大卒でテレビ局のアナウンサーを経験しながら、親の介護のために数年離職した50代後半の人がゲスト出演していた。数年のブランクが職場復帰どころか社会復帰まで閉ざされてしまい、今や「日雇い労働者」として最低限の生活を送っているという。自身のその経験を『中高年ブラック派遣』という本にして、番組内では「ジャーナリスト」という肩書を得ていた。

 

バブルの頃は絵にかいたようなエリートが、敷かれたレールをちょっと外れてしまうだけで従前の評価が得られず、社会的弱者に落ちてしまう、それが今の日本の雇用環境だ。本人の仕事の能力や人脈など、ほとんど変わらない状況であっても、半年以上のブランクがあれば雇う側は採用に慎重になり始め、離職が1年を超えれば、前職に戻る場所もなく転職もままならない。本人の能力よりも、何年のブランクがあったかという「年数」が評価対象になってしまう。

 

欧米のように『同一労働同一賃金』や本人の能力を適正に評価し、年齢やブランクに限らず雇用契約を結ぶということはほとんどない。「終身雇用」というひとつのレールを踏み外した途端、出産や介護による離職は、その後の人生の歯車を狂わせてしまうのが日本の雇用環境だ。このような雇用の流動性の低さが、出産や介護に対する心理的なマイナス影響を与え、子育て環境にも影を落としている。

 

この「ブランクの年数」で中身の評価をせず、価値が急落する雇用市場と、建物自体を評価せず「築年数」で価値が急落する住宅市場は、どちらも日本独特の減少であり、欧米では考えられない状態だろう。ひとつの価値観に縛られ、それから外れて途中下車や違う方向に向かうと、その途端に『巨額な損失(逸失利益)が表面化する』ような硬直的な社会になってしまっているのが今の日本の社会ではないだろうか。その状況を改善しない限り「一億総活躍社会」は絵に描いた餅であり、非現実的な目標でしかない。

 

また待機児童も介護離職も、子育てや親の介護を家族の負担によってカバーする「自助」であり、今政治が行おうとしているのは、福祉予算などの税金を投入する「公助」だ。しかしご近所同士の繋がりが強く、地域のコミュニティがしっかりしていた時代は、もっと近隣同士の「共助」が存在した。例えば東京でも車が入れないような路地裏に、今でも長屋が連なる月島や神楽坂など、親密な近所づきあいが残っている。そのような場所では子育てや介護もお互いが助け合うという関係が成立していた。それが失われていったのは、プライバシーやセキュリティを重視し、近隣に繋がりのない住宅地が増えて行った状況と符合する。

 

子育て施設や介護施設不足、そしてそこで働く労働者不足や低賃金・長時間労働を改善するためには、「公助」や「自助」に頼るだけでなく、ご近所同士が助け合う「共助」が不可欠だ。そこには、税金の投入も個人の犠牲も大きな経済的負担もなく、お互いの人間関係、地域のコミュニティが続くことが大きな価値となる。そのためには多様な世代が住み、従来の団地のような「高齢化した家族が固定化」しないような不動産の流動性が求められるだろう。そのよき見本は、米国の伝統的近隣住区開発(TND)にある。

 

80年代にシーサイドを開発したデベロッパーのロバート・デイビス氏や設計者から、現地で直接話をお聞きした。

米国のTNDによる最初のプロジェクトは、フロリダ湾に面した白砂海岸の寒村を開発した「シーサイド」
別荘地のようなシーサイドの街並み
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