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若本修治の住宅コラム

2021.7.30 第176話

空き家対策の優先順位。

今年度より、広島県庁の空き家対策検討チームに入り、参加している専門家や業界人の方々と議論がスタートした。実質議論のテーマは「空き家対策」なのだが『中古住宅流通促進に向けた検討チーム』となっていて、最初に開催された会合では、新型コロナ禍の重点対策期間だったためオンラインでの初会合で、議論が空転したように感じた。特に県としてはDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進も掲げており、「中古住宅流通促進」というテーマになると、大手不動産仲介業者や住宅情報サービス、不動産ポータルサイトなどからも“業界関係者”として参加してもらっているから、不動産情報の検索の容易さや、情報量・質、取引件数やユーザーアンケートなどの分析結果を発表すると、掲載物件数や取引単価、不動産価格の推移など、どうしても「中古住宅の売買取引を活発化するには」とか「もっとデジタル化を進めなければ」という議論になりやすい。この状況で、皆の関心はやはり“不動産仲介料の最大化”に向き、価格が下がりにくい都心の中古マンションや、駅に近く立地条件がいいものの老朽化して入居者が埋まらない木造賃貸住宅の処分や、まだまだニーズがある郊外の新興団地の空き家等がメンバーの頭に浮かびやすい。しかし、その課題のほとんどは広島都市圏に限られる問題で、県内の他の市町が抱える「空き家への危機感」とは乖離があるだろう。

 

郊外の新興団地は、同時期に一斉に入居したベッドタウンで、高齢化も介護による施設への移転や死亡による空き家なども同時多発的に発生しやすく、分譲後30年も経てば中古住宅も数多く市場に出てくる。しかしバブル前後に売り出された物件は割高で、しかも敷地は広く道路幅も十分なので、実態としては業者が買い取って敷地を2~3に分割し、返済しやすい価格の小規模の建売住宅になっていくケースが多い。このような状況が進めば、広さがウリの郊外住宅の住環境が次第に壊され、ゆとりある環境は元の状態には戻らない。なかには中古として購入し、リフォームやリノベーションするケースもあり、“中古住宅流通促進”が本来、県が危機感を持つ課題であれば、それも良しとするのだろうが、行政にとっての危機感や住民にとっての社会的課題は恐らくそこではなく、不動産業界の意識とのギャップは大きい。業界はせいぜい「インスペクションを実施することで、しっかりと性能や品質を担保して、中古物件を売りやすくしたい」という、いかに自分の商いを増やすかにしか興味がなく、その議論を自治体主導で行うことへの疑問は私にとって大きくなるばかりだ。

 

不動産流通の仕組みではなく特定空き家が社会的課題

 

島しょ部や中山間地域には、立派なお屋敷が空き家になっているケースが少なくない

行政にとっての喫緊の課題は、2015年に施行された『空き家対策特別措置法』で新しく定められた「特定空家等」に関して、業界人や専門家の知恵や経験を聞き、議論したいというのが本音だろう。つまりそのまま放置すれば倒壊の危険性が高まり、景観へのマイナスイメージによってそのエリアの生活環境を損なう可能性のある“特定空家等”を除去や再利用、不動産市場で取引可能な状態にならないだろうかというのが、最も議論したいところだろうと感じている。

ただそれは広島県内でも莫大な数であり、特に多いのは過疎化が進む中山間地域や島しょ部、階段しかない坂だらけの呉市や尾道市などの急傾斜地に建つ古い民家に数多く点在している。そのような家はそもそも需要がないか再建築不可で、安くしても買い手のいない「流通に則さない不動産物件」がほとんどだ。だから自治体による実態調査は進むものの、基礎自治体内でも数千~数万戸にも及ぶから、圧倒的に需要よりも供給が多く、空き家を買いたい人も、安い仲介料で媒介しようとする不動産業者もいないのが実態だ。ちなみに島しょ部も含まれる”呉市”だけで利用予定のない「その他空き家」の数は「20,160戸」その他空き家率で15.7%(すべての空き家率は22.6%)になっている。(総務省平成30年住宅・土地統計調査)

 

このような市場から弾かれてしまったような不動産は、もはや自然に戻すか近隣公園として整備し、地区の憩いの場や地区住民が一時的に利用する公開空地のような扱いにするしかない。もしくは市民農園として園芸や野菜をつくり、自治会の共有管理で、自治会役員になれば収穫のうち一部をおすそ分けするといった役員就任へのインセンティブにするなど地区で利用方法を考えたい。本来、そのような不動産を放置しているのは、老朽化した建物が残っているだけで「小規模宅地等の特例」として、固定資産税が6分の1に圧縮できるからで、解体費用を負担してまで更地にするインセンティブは全く無い

広島市佐伯区内にある古い大型団地。バス停前の敷地を農地として利用している。

 

欧州などの国では、老朽化した建物を放置することは、近隣の人たちの住宅の資産価値を貶め、景観も悪化、社会的な責任をお金で負担するために、固定資産税を徐々に上げて本来の税率に戻していくということも行われているようだ。放置すれば徐々に上がっていくことが所有者に分かれば、それは大きな負担になることが計算出来るから、早めに手放すか解体するかを選ぶだろう。そもそもすでに限界集落化したエリアや、急傾斜地で災害危険地域に参入されたり、宅地造成の規制や接道がなく、新しい建築が困難なエリアに、中古住宅の流通活性化を議論する意味は少ないだろう。

 

徹底議論すべき空き家の本当の課題とは

 

従って、私が検討チームで最も集中的に議論すべきは、地価が高いままで地域の高齢化と建物の老朽化が同時に進み、火災も含めた災害に対して物理的にもリスクが高く、連絡手段や避難といった自治力・コミュニティ関係も脆弱になっているエリアこそ、基礎自治体が対策を講じるために専門家や業界の人達から意見を集めることが喫緊の課題だろうと思う。より具体的なイメージでは、木造密集地域であり、もっと行政的にすぐに検索・抽出できるのは“二項道路”という幅員が2m程度しかない狭い道路で建替えも進まない、戦前からの市街地だ。広島市内は原爆で建物が消失し、市内中心部は区画整理され、それ以降も都市計画道路の整備によって住宅地も生活道路が4mや6mの幅員になって緊急車両も通れるようになったが、それでも南区皆実町や東区牛田本町、隣接した安芸郡府中町内や海田町など、道が狭くて地価が高く、建替えが進まないエリアは点在している。県内の市町でも、三原市の駅から徒歩圏の平地や府中市、竹原市などの中小都市内でも、旧市街地で利便性の高い地区で、空き地やコインパーキングなどが増え、周辺から人やお店が無くなるから、さらに空き家や人口流出に拍車がかかっている。

広島市南区の木造密集地域。2016年12月に大火災によって広域で住宅が消失した新潟県糸魚川市の被災が記憶に新しいが、このようなエリアは、消防車も救急車もアクセスできず、大地震による火災やゲリラ豪雨による水害などが発生した時にも救助が届かない可能性がある。

 

この課題の解決は容易ではないが、立地条件は決して悪くはなく、逆に言えばこのような地区を再生できれば、郊外へのスプロール化も止められるかも知れない。逆に郊外の開発許可を厳しくし、環境負荷を増やす郊外への宅地開発を抑制しない限り、中心部の空洞化、空き家の増加は止められない。国が進める「コンパクトシティ」や「立地適正化計画」に沿った厳格な都市計画を進めなければ今の状況は改善しないだろう。福山市でいえば、本来「市街化調整区域」であろう旧神辺町に新興住宅地が次々出来ることで、府中市や旧芦品郡新市町、駅家町などで、人口流出や空き家増加の一因になっていると予想される。私は、このような課題解決をするための県や自治体による制度設計と、金融を含めた地区住民のコンセンサスが得られるスキームをイメージしているが、詳細は次回に考察してみたい。
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■コラム第177話 都市部における空き家の解決方法を考える

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

今にも崩れ落ちそうな空き家。意外と昔の大工さんが手刻みで木組みし、竹小舞で壁下地を組んで土壁を練って建てた家は、台風による強風や地震でもなかなか倒壊しない。昔の家には粘り強さと復元力がある。

今にも崩れ落ちそうな空き家。意外と昔の大工さんが手刻みで建てた家は、台風や地震でもなかなか倒壊しない。
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