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若本修治の住宅コラム

2021.8.20 第177話

都市部における空き家の解決方法を考える。

前回のコラムでは「空き家対策の優先順位」を考えてみた。

新型コロナの蔓延によって、『トリアージ』という耳慣れない言葉が広がったが、単に優先順位ではなく、医療の世界では”患者の重症度に応じて、治療の優先度を決め、選別する”という意味で使われている。つまり、そのまま放置すれば将来取り返しがつかないほどのダメージを残すような緊急事態であれば、選別やむなしという話だ。

日本の中古住宅流通、とりわけ地方における「空き家問題」は、毎年のように増え続け、そもそも市場価値が失われてしまった”不動産業者も見向きもしない空き家”が社会問題になっており、流通で改善できる見込みも、増加を抑制することも出来ない状態。だから何を優先的に取組むか「選別」することが今求められている。私は優先(選別)して対応すべきは、幅員4m未満の”二項道路が数多く残っている木造密集エリア”だと前回のコラムで指摘した。

戦前からの木造密集エリアは、道路幅員が4m未満の「2項道路」(みなし道路)だけでなく、建築基準法上の道路としての基準を満たさない「但し書き道路」など、建築許可が得られない建替え不可の敷地なども存在する。道路は私道で通行の権利もない場所も混在している。

 

自治体が公的資金で空き家対策や中古住宅流通に取り組むには、大義名分が必要となる。

単に「経済効果」や「雇用の増加」であれば、特定企業への利益誘導になり兼ねず、公平性や社会的弱者の救済、条件が異なるエリアでの再現性も問われるだろう。そこで私は空き家の優先順位について前回コラムを深掘りし、以下”判断の拠り所”として整理してみた。

 

1.その建物を放置することで、
  所有者以外の第三者への生命や財産へ深刻な被害を与えるか否か

 

【解説】

限界集落での空き家、農漁村部での老朽家屋は、見栄えは悪くても近隣には深刻な被害は生じないのであれば放置しても経済的損失もない。逆に人口規模が小さな町でも、古い街道筋の旧宿場町だったような市街地や住宅密集地では、家屋の倒壊等により通行の安全や近隣建物への直接的被害、火災の発生や犯罪への利用などが懸念される。間接的被害も含めて、放置することは地域社会の持続性に悪影響を及ぼしかねない。

瀬戸内海の島しょ部の空き家。たとえ朽ち果てても、第三者には大きな影響は与えない。

 

2.主として地方税でもある固定資産税収入の増加が伴うことで、
  税投入が正当化されるか否か

 

【解説】

超高齢化と人口減少が加速度的に進む地域で、古民家を民泊や飲食店経営などへのリノベーションをして、数名の移住者と多少の経済効果を出すことが、毎年亡くなる高齢者の数(=自然減)や、進学や就職で地域を出ていく若年層の増加(=社会減)をカバーできるのであれば、自治体が取り組む価値がある。しかし、補助金投入による一部の民間企業や個人だけへの効果であれば、民間企業に任せるのが筋。一方、現段階でも一定の地価水準が形成されていながら、不動産取引が低調で、地域の高齢化と空き地・空き家が増加しているエリアであれば、有効な対策を講じることで社会的課題の解決と税収増、地域活力の再生など、自治体が優先的に取組む正当性が見込まれる。

 

古民家を改造し、民泊施設として営業している事例。役所への確認申請も構造計算も不要で、消防検査や保健所検査だけであれば、危ない間取りもチェックできない。熊本地震でフォーカスされた「直下率」を図示化するため、2階の柱位置を1階の間取りにプロットした。2階浴室は本来の古民家ではあり得ないが、荷重計算をせず意匠と雰囲気だけで設計しているように見える。

 

3.その取り組みに、再現性があるか否か

 

【解説】

空き家の問題は、需要と供給のギャップが大きいだけでなく、やはり不動産流通の問題も大きい。それは不動産情報の透明化やデジタル化といった課題より「仲介手数料が安すぎて、取り扱いたくない」という、不動産業界側の都合や意識が根底にある。空き家対策を効果的に、効率よく解決するためには、複数の不動産業者が商売的にもメリットを感じて、都市部だけでなく過疎化や高齢化が進む地域であっても、地元不動産業者の協力が得られるかどうかが、再現性の鍵となる。

 

4.地域の持続可能性に寄与するか否か

 

【解説】

空き家が増加しつつあるエリアは、町内会役員のなり手も減り、コミュニティが崩壊しつつある。地域で暮らす人達の人間関係が徐々に希薄になり、若い人たちが戻ってこない、子育て世帯が少ない状況が続けば、それがJRの駅から近くても地域の活力は失われ持続可能性に赤信号が灯る。従来は、容積率を緩和することで分譲マンションの進出や食品スーパーなどの誘致もしていたが、個人のプライバシーとセキュリティを強化する分譲マンションが近隣に出来ると、町内会の組織率が下がるのみならず、昔から住んでいた土地の固定資産税評価(=相続税評価)が高くなるだけで、年金とわずかながらの預貯金、自宅の不動産程度しか持たない高齢世帯は、デメリットのほうが大きいことに気づいてきた。食欲や購買力も落ち、家族数が少なくなれば、食品スーパーも撤退していき、衰退に拍車が掛かるばかりだ。それを回避できるような再生が望まれる。(参考コラム:一戸建て住宅とマンション混在の街の問題とは

約100坪の土地に1世帯と約300坪の土地に40世帯では土地保有の負担のギャップが大きい。こうして昔ながらの景色と近隣関係は崩壊し、街の資産価値も低下していく。

 

5.経済的負担を最小化出来るか(家族の持続可能性追求)

 

【解説】

不動産以外の資産の少ない高齢世帯が多い地区で、大きな経済的負担がなく、若い人たちも戻ってきたくなるような再生が望ましい。出来れば土地さえ提供すれば、快適な暮らしが保証されるような再生だ。そこにコミュニティも再生され、その地区に住む人自体が精神的に豊かさを感じて住み続けたいと思えるような地区の再生が出来るかどうか。


※ 注釈:
特に広島県内は、土砂災害の危険性のある急傾斜地や、水害の危険性のある低地で空き家が増加しており、そもそもハザードマップにより購入意欲が減退、安くしても売れない物件は、法定上限の仲介手数料や追加の調査費用を得ても、不動産会社には取り扱う魅力はないも同然。やはり1案件最低でも仲介料が50万円以上(土地取引で1,500万円程度)、出来れば100万円程度(土地+建物で3,200万円程度)の仲介手数料が得られなければ、広告を打ったり物件案内をする手間は掛けられないのが不動産仲介業者だ。


■街区として再生する

 

地方の空き家問題は、もはや感染拡大の新型コロナウイルスと同様、個別の感染者を追う状況では問題解決できない。仲介を行う不動産業者も、数がまとまれば1戸あたりの仲介手数料単価は安くても、商売として旨みが出て本気で取り組みやすい。出来れば限定されたエリア、同じ場所で複数案件あれば販売効率も高まり、悪化しつつあった周辺の住環境にも手を加えることが可能だ。感染症でも訪問診療で医師と看護師が戸別訪問し、その都度防護服を着脱して、個別症状に対応するより、療養所に集まってもらい、集団で保護観察・治療するほうが効率が良くお互いが安心できる。

すでに不動産価値が大きく失われて、建替えも出来ず潜在的空き家も増えることが見込まれるエリアは、行政が都市計画法第9条第13項の『特別用途地区』制度を利用し、「用途地域内の一定の地区における当該地区の特性にふさわしい土地利用の増進、環境の保護等の特別の目的の実現を図るため当該用途地域の指定を補完して定める地区」と定めて、木造密集化による災害リスクの回避と共に、地域再生のモデル地区として、新しいスキームを組み立てることを提案したい。この「特別用途地区」は、地方自治体の裁量で制限の強化や緩和が出来る制度。これだけ空き家が増えている状況で、社会実験的に適用してみることで、再現可能性も各自治体が管理することが可能だろう。

私がイメージするスキームは、道路に囲まれた最小街区単位で空き家率や空き地、高齢化率等の複数の指標に当てはめて、一定の水準を超えた街区の住民に聞き取り調査を行い、自治体と地元で信頼の厚い不動産業者が連携し、地権者に対して「個人施行の区画整理事業」の計画立案を支援するというもの。まずは地域のお寺や神社、大地主などが所有して「借家・借地の割合が高い地区」を対象にすれば、古くて老朽化・高齢化が進み、比較的土地所有者の権利関係が複雑ではない場所を見つけるのは難しくはないだろう。古くからの地主は、従前の借地借家法で「正当事由がなければ借地契約は終了できない」という状態に手を打つことが出来ず、衰退している地域も決して少なくない。このような地区で、新しいスキームで区画整理を行い、災害にも安全なインフラと建物の再生を行う成功事例が出来れば、県内の他地域でも試行できる。様々な課題が噴出してきたとしても、複数カ所でPDCAを回せば再現可能性は高まっていく。

この時に大切なのは、従来の区画整理事業のように土木的事業のみ行政が音頭を取り、完成した街の”魅力的な”姿を描くことなく、地権者の自由に「建物建築」や「土地売却」などを任せてしまわないこと。そうなれば、多くの住宅メーカーや不動産業者、アパートメーカーの格好の餌食となり、土地は細分化されたり、コインパーキングに化けたり、従前以上のちぐはぐな統一感のない街になってしまうだろう。広島市都市圏では、南区の段原地区や府中町の向洋駅周辺地区、これから区画整理が始まる西区己斐の西広島駅周辺が、まさに高齢化が進む地権者に、強欲な不動産・住宅業界の営業マンが虎視眈々と狙いを定めている。

区画整理事業で出来た新しい街「段原」で進む新築住宅着工の様子。敷地は細分化され、隙間だらけでまとまりのない街並みが出来ていく。地区詳細計画があり、明確なガイドラインのある欧州では、こんな街並みが出来ることはない。

 

■コーポラティブ方式による地域の再生

 

ヴォーバン住宅地内の生活道路。標識にあるように、車の進入が出来ない「カーフリー・ゾーン」で、子どもたちが道路に落書きしたり、キャッチボールやサッカーごっこなども出来る。側溝は水が浸透できる仕様で、緑も育ちやすく下水への負荷を減らす工夫がされている。

私が2010年に訪ねたドイツの地方都市フライブルクで、フランス軍に接収されていた「兵営地」を住宅地に再生した『ヴォーバン住宅地』は、空き家が増え老朽化した日本の街区再生のベンチマークになり得ると考えている。都市計画で建物の高さや外壁ラインなどを揃え、街区当たりの世帯数や床面積なども事前に想定し、多くの緑地を残しながら建物密度を高めて、災害に強く省エネの街をつくりあげていた。その場所に住みたい住人が集まり、組合をつくって街づくりの基本を学び、ワークショップなどを行って、自分たちの住みたいまち・公園など、模型やCGなどで試行錯誤しながら、建設協同組合(コーポラティブ組織)を設立し、地元の設計事務所をコーディネーターとして、住民が地元の専門工事業者などに発注して、家づくり自体を「見える化」していた。38ha、5千人を超える住宅地の7割近くが、ゼネコンやハウスメーカーなどの総合建設業に住宅建築を発注せず、住民自らつくった『コーポラティブ方式』で家を建てたから、コスト削減だけでなく、家に対する愛着も、街全体の統一感、魅力も高まり、地元の職人・材料業者へ建設投資が直接落ちて、将来のメンテナンスも顔の見える関係で地域の持続性が高まっている

 

フライブルクのヴォーバン住宅地が有名なのは、「カーフリーエリア」まであり、基本的に住宅地内は自家用車の進入が出来ず、徒歩や自転車で路面電車など最寄りの公共交通機関まで徒歩5分以内でアクセスが出来るような、車に乗らない高齢者や子どもたちでも安心・安全に暮らせる街をつくっている。さらに超高気密・高断熱住宅の『パッシブハウス基準』の建物内部は、氷点下に下がる冬のこの地域で、暖房なしで室内温度が18℃以下にならないという、環境都市として世界的に注目され、視察が相次いでいるが、日本の木造密集地の再生にも応用できる成功事例として移植が可能ではないかと考えている。

 

 

米国シアトル郊外の宅地開発を視察。高密度で木造住宅を配置し、地元のホームビルダー3社が調和ある街並みを設計して、効率よく工事を実施していた。日本の「建築条件付き分譲」に似ているが、街並みの統一感・連続性を重視している。黄色の「Highlands Square」社の建物は、中庭をコの字に囲んだ連棟の建物になっている。建物の裏通りに車庫やゴミステーションなど「バックアレー」があり、日本で言う勝手口になっている。

上の画像の「Highlands Square」社が建築した街区の完成写真。アメリカ人好みでカラフルな外観だが、もちろん日本人好みの計画は可能だ。同じ会社により街区が一体感ある町並みになって、資材調達や工事施工の合理化も進められ、一部を賃貸に貸すなど、投資採算性を高める工夫もみられた。日本の長屋や建売のようにならない意匠設計は必要。路上駐車はしているが、歩道を横切っての車の出入りはないので、歩車分離となっている。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

 


【資金の調達等に関して(補足)】

現在お住いになっている高齢者の方々を含め、持続可能性を維持していくためには、建設費の調達なども重要になってくる。区画整理に伴う建物の除去やインフラの再整備などのコストの他、新たに建てる建築費まで調達できなければ、コミュニティの再生は出来ない。現在、住宅金融支援機構による『リバース60』など、高齢者が建替えをするための建築費については制度融資が利用できる。宅地自体は、土地と建物の所有を分けて流動性を高めるなど、欧米に学べば様々な解決方法が考えられるが、今回は長くなるのでまたの機会に検証したい。

 

●フライブルクのヴォーバン住宅地の街並み(2010年6月若本撮影)

東日本の震災やドイツの戦災からの住宅復興も参考になります。参考コラム『災害復興は自立するコミュニティから

ヴォーバン住宅地の中央緑地帯に新たに引き込まれたLRT(次世代型路面電車)は、ターミナル(終着駅)は円形のロータリーで元の軌道に戻ってくる方式。この団地内には路線バスと同程度の駅間距離で3つの電停がある。軌道内は芝生になっていて、夏の照り返しもなく雨は地中に浸透して気候変動への配慮が見られる。自家用車はLRTが走る幹線道路のみ走行や一時駐車が可能。

ドイツの環境首都フライブルク市のヴォーバン住宅地。住民参加のコーポラティブ方式で建てられている家々。車よりも徒歩や自転車のほうが快適に早く移動できる街。バックアレーとなる生活道路側には駐車場も自動車の姿も見えない。

ドイツの環境首都フライブルク市のヴォーバン住宅地。住民参加のコーポラティブ方式で建てられている家々。
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